本人や家族、周囲の人間関係……。さまざまな問題に端を発し、非行に走ってしまう少年少女がいる。彼らは何を思い、どのように未来を見つめているのか。
ここでは、作家、映画監督の中村すえこ氏の著書『帰る家がない少年院の少年たち』(さくら舎)の一部を抜粋。少年院退院後、周囲から追い詰められ、闇バイトに手を染めてしまったワタル(18)のエピソードを紹介する。(全4回の4回目/はじめから読む)
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「強盗殺人未遂で10代の少年を逮捕」のニュース
その後、何度かワタルと会う約束をしたが、体調不良などを理由にキャンセルされていた。
連絡はとれており、暴走族のことで警察に相談に行った報告や、お金を貸してほしいとお願いされたと高坂くん(編集部注:NPO法人再非行防止サポートセンター愛知の理事長)から聞いていた。ワタルに何かよくないことが起きていると思わざるを得ない状況だった。
感じていた危機感はある意味、勘に近いものだったが、お金がどうして必要か聞いても、自分の欲しいものを買うためとしか答えない。法的な相談窓口、必要なら警察へ行くことをすすめたが、こちらの言葉が届いているように感じられなかった。
ワタルにとって、私たちは「信頼できる大人」になれていないのだろうか。
年が明け、やっと約束ができた2023年2月○日、ワタルの家の近くまで行くことになっていた。しかし、この日も体調不良を理由にドタキャンされてしまった。
「ワタルに何か起きていることは間違いないと思います」
高坂くんは、お金を貸してほしいという連絡がきたときのことを言っているようだ。
急なお金が必要になるときは、先輩から集金の命令が入ったりしていることが多い。騙されたりや、ハメられてお金が必要になる場合もある。
「私たち、ワタルに寄り添えてないのかなー」
高坂くんが私の方を見て、その言葉を呑み込んで考えているのがわかった。高坂くんに言ったわけじゃなく、自分の心の声が出てしまっただけだ。でも、高坂くんも同じことを思っているようだった。
人に寄り添うことはとても難しい。ワタルは何を求めているのだろう。
ワタルからドタキャンされた翌々日、テレビのニュースが耳に入ってきた。
「2月○日、強盗殺人未遂で○○県○○市在住の10代の少年を逮捕した」
高坂くんからすぐに連絡がきた。LINEにリンクが貼られていたのは地方で起きた強盗事件のニュース。この10代の少年がワタルかもしれない、というのだ。
まさか、まさか、と思ったが、しかし、絶対違うという確証もない。高坂くんがワタルの父親に電話し、事実確認をすることになった。