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作品内で、周燕飛(しゅう・えんび)日本女子大学人間社会学部教授がこう分析する。

「ヨーロッパの他の国々と比較すると、日本のシングルマザーの最大の特徴は、フルタイムで働いているにもかかわらず貧困状態にあることです」

日本の専門家であるグレッグ・ストーリー博士も、OECD加盟38カ国の中で日本はひとり親世帯の就業率がもっとも高い国だとこう語る。「ひとり親世帯の85%が就業しているのに、およそ56%が貧困状態にあります」

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映画では保育士と介護士のダブル資格をもったシングルマザーが1日中働きづめでも、手取りが20万円にも届かない貧困を浮き彫りにする。実際に、政府の調べによると、シングルマザーの平均年収は236万円とシングルファーザーの半分ほどしかない。こういった事実に衝撃を受けた監督は次のように話す。

「オーストラリアでは子どもの6人にひとりが貧困に陥っていて、それが(ストリートチルドレンのような)分かりやすい形で目に見えます。でも、日本はそうじゃない。私たちの目の前にいる、普通の子どもの7人にひとりが貧困に陥っている。まさに“隠された貧困”です」

この映画を撮るきっかけとなった監督の友人も監督の公的な助けを受けられなかった。なぜ日本のシングルマザーの貧困が隠され、母親が試練を受け続けねばならないのか。この点について、ドキュメンタリーは3つの興味深い考察を紹介する。

戦後、子どもの責任が妻ひとりだけのものとなった

第一に、戦後のジェンダーロールがもたらす養育費未払いだ。家族人口学を研究する加藤彰彦・明治大学政治経済学部教授は、戦前の日本人はほとんどが農業や商店など自営業を営み、子どもを産むとすぐに妻は働いていたと解説する。子どもは家族やコミュニティによって育てられていた。戦後、朝鮮戦争の特需により日本が経済成長するにつれて、夫は会社で働き妻は子育てをするという家族の形態に変わった。そうして、子どもは妻だけの責任になったと加藤教授は考察する。