1ページ目から読む
4/5ページ目

実際に日本では離婚後、親権の9割を母親がもつ。そして、別居親の父親のうちたったの28%しか養育費を払わない。これについてマカヴォイ監督は次のように語る。

「これは日本人の男性がひどいというよりも、養育費未払いを厳しく罰しない法的制度のせい。親としての責任をとらない男はどこの国にもいます」

監督によると、他の国では養育費を支払わないと銀行口座・運転免許証・パスポートの凍結や、刑務所収監などの懲罰があるという。

ADVERTISEMENT

筆者が調べたところ、アメリカでは40%以上(アメリカ合衆国国勢調査局調べ)、ハンガリーでは75%の別居親が養育費をきちんと払う。一般的に欧米の多くの国は養育費回収に対して行政が迅速に介入するから、日本よりもはるかに多くの親が支払う。また、ヨーロッパの多くの国が養育費の回収をできない場合は立て替えもする。

日本でも法的には、養育費を払わない親に養育費を請求し、資産や給料を差し押さえることができる。しかし、監督が取材したシングルマザーは養育費強制執行まで2年ほどかかり、弁護士費用に約100万円かかったそうだ。日々の家計を自転車操業しているようなシングルマザーには強制執行までの費用はハードルが高すぎる。

世帯収入を基本とする社会福祉制度と行政の水際対策

第二に、「世帯年収」に基づく社会福祉制度だ。シングルマザーが実家に戻り、両親と暮らすと両親の年収も加算されて「世帯年収」が決まる。すると、所得制限にひっかかり、児童扶養手当をもらえない。こういった社会福祉制度は戦後の会社員の夫と専業主婦の家族モデルに基づいている。女性の8割が働く現代にまったくそぐわない。

第三に行政の水際対策が考えられる。

「シングルマザーのなかにはスマホしか持っていない人も多いので社会福祉を調べるのも大変。それなのに行政の窓口は手続きを意図的に煩雑にしています」と憤るマカヴォイ監督。複雑な書類手続きや行政の窓口の不親切な対応が生活保護や様々な手当の受給を「恥」として見せ、スティグマ(差別・偏見)を助長する。