映画内で、2014年9月に千葉県銚子市で起こった悲惨な無理心中事件が紹介される。中学2年の娘がいるシングルマザーは2年にわたって県営住宅の家賃を滞納したため、明け渡しの強制執行が行われた。そして明け渡しの日に母親が娘との無理心中を計ったのだ。
県営の住宅の家賃は月1万2800円だったが、母親の収入レベルだと家賃の8割が減免になった可能性がある。そうすれば家賃は2500円ほどになっていた。行政は母親にその減免制度を教えなかったのだ。娘を殺して自分は死にきれなかった母親は懲役7年の刑を受けたが、行政の水際対策が母親をこのような犯罪に追いやったといっても過言ではない。
本作のプロデューサーである及川あゆ里さんは、本作が「日本より海外で話題に上った」ことにこそ問題の本質があるとマカヴォイ監督に語ったという。
「日本人の私たちには見えなかった事実がこのドキュメンタリーには描かれています。作品発表をした後に一番衝撃的だったことは、海外での関心度はとても高く支援やお声も多く頂けたのですが、国内の関心度が低かった事でした。見て見ぬふり・しかたないと諦める文化が変わることを願います」
日本社会の中に潜む構造的な問題を鮮明にしたドキュメンタリー『取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境』から、私たち一人ひとりが何をできるのか考えたい。
【作品情報】
ドキュメンタリー映画『取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境』
映画公式サイト
公開は新宿K’sシネマにて一週間限定公開(11月9~11月15日)
映画館公式サイト
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。