SNSなどで時折「炎上商法」という言葉を耳にします。あえて批判されるような表現を用いることで話題を集めるマーケティング手法ですが、その手法自体が問題視されることも珍しくありません。
愛知淑徳大学の心理学部教授である久保 (川合) 南海子さんは、自分の認識が世界の見え方に影響を与える「プロジェクション」という心の動きについて指摘します。
ここでは、そんなプロジェクションについてさまざまな事例を紹介しながら解説していく『イマジナリー・ネガティブ 認知科学で読み解く「こころ」の闇』(集英社新書)より一部を抜粋して紹介。実際のところ「炎上商法」は効果があるのでしょうか――。(全4回の2回目/続きを読む)
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「炎上」も「バズる」も注目されること
SNSで拡散されたり注目されたりしている投稿や話題について、盛りあがっている状態を「バズる」といいます。SNSを見ていると、毎日さまざまなバズっている情報が流れてきて、私もいいなと思ったらしかるべきボタンを押したりしています。
バズるとたくさんの人の目に触れるということで、一般の人もさることながら特に企業などはバズることを重視して、それをマーケティングに活用しようとする動きも活発です。商品や会社の宣伝として、なんといっても予算がかからず、短い時間で飛躍的に認知されるとなれば、商業CMを作って流すよりもはるかに低コストです。しかし、そうそう狙ったとおりにうまくいくとはかぎりません。
バズるのを狙ったのに失敗してしまった例は、それこそ山のようにあります。ちょっとネットで検索すれば、すぐにいくつかの事例を見つけることができるでしょう。失敗したものは「炎上」します。
炎上とは「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態」「特定の話題に関する議論の盛り上がり方が尋常ではなく、多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる状態」のことです(総務省・令和元年版情報通信白書)。バズるのがポジティブな盛りあがりなら、炎上はネガティブな盛りあがりだといえるでしょう。どちらも多くの人に拡散されて注目されていることに違いはありません。
私がここでとりあげたいのは、期せずしてやらかしてしまい炎上した事例ではなく、商品やサービスを販売するために、あえて批判や非難を浴びるような広告やマーケティング手法を使う「炎上商法」です。これには、炎上を利用して注目度や話題性を高め、売り上げを増やす狙いがあります。しかし、そんなことがうまくいくのでしょうか?