どういうわけか、世の中には人々から「やっかみ」を買いやすい車種がある。なかでも公道でギラつく存在感を放つトヨタのアルファード/ヴェルファイアは、その最たる例と言えそうだ。
「オラオラ顔」と呼ばれる威圧的なデザインもあってか、ネット上ではしきりに「アルヴェルオーナーのガラの悪さ」が取り沙汰されている。しかし実際のところ、こうしたイメージはどれほど実情を反映しているのだろう。
現在アルファード/ヴェルファイアを所有する人たちや、ディーラー関係者に話を聞くと、ネット上のイメージとはかけ離れた実相とともに、ステレオタイプと合致しそうな一面も浮かび上がってきた。
「自分が偉くなったように錯覚する」運転席の魔力
おそらくアルヴェルは、「実際に乗ったことがあるかどうか」によって大きく評価が分かれる車なのだろう。傍から見れば「デカくてイカつい車」だが、中に入れば快適きわまる「おもてなし空間」が広がっている。
こうした現実的な利点が、購入を決める最大のポイントになるケースは多いと思われる。以下に紹介する30代会社員の河合さん(仮名)も、こうした例に該当しそうである。
河合さんは製造系の上場企業に勤めており、埼玉県南部で会社員の妻とともに6歳と1歳の子を育てている。アルファードは保育園の送迎用と、休日のお出かけ用として使っているとのことだ。
「買う前はあんまり、大きいミニバンにいいイメージがなかったんですよ。むしろマナーの悪いドライバーが多い印象でした。
ただ子どもができると、やっぱりスライドドアがないと不便に感じることも増えて、上の子が3歳になる頃にミニバンを探して……妻も息子もアルファードの広さに興奮しまくっていたので、まぁもう買うしかないなって。
お金に余裕があるわけじゃないですけど、リセールを考えると他のミニバンとあまり負担は変わらなさそうだし、それならこっちの方がお得じゃん、と思ったのもありますね。
実際に乗っていて、満足度はかなり高いです。内装もいいし目線も高いし、最初はなんだか自分が少し偉くなったような感覚がありました」
高級車に乗ったときの「自分が偉くなった感覚」は、特段アルヴェルに限られたものではないだろう。ただアルヴェルの場合、目線の高さがそれに拍車をかけている面はあるのかもしれない。そうした「VIPの雰囲気」も、アルヴェルの魅力のひとつである。
なお話は逸れるが、目線の高さは気分だけの問題ではなく、現実に「車間距離」にも影響を及ぼす。「視点の高い車は車間距離を長めに認識しやすく、結果として実際の車間距離が短くなりやすい」という傾向は、大型免許の教本にも注意事項として記載されることがある。
意図せず車間が短くなり、前走車に「オラオラ顔」でプレッシャーをかけてしまう……仮に「ごく普通のドライバー」が頻繁にこうした状況に陥っているとしたら、それがアルヴェルの「ガラの悪いイメージ」の遠因となっている可能性もありそうだ。