健康長寿を目指すうえで「臓器のアンチエイジング」は重要な考え方だ。膵臓のアンチエイジングを、九州大学病院病院長で臨床・腫瘍外科教授の中村雅史氏が解説する。(取材・構成=長田昭二)
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膵臓が脂肪に置き換わる
膵臓は、胃と十二指腸に接するようにして、胸腔の背中側に張り付いて存在する「数の子」のような形をした臓器です。お腹側からだと非常に見にくい位置にあるため、あらゆる臓器の中でもとりわけ手術の難しい臓器とされます。
膵臓の大きな役割は、膵液とインスリンの分泌――この二つです。
膵臓では膵液という消化液を作っていて、口から食べた物が十二指腸に流れてくると、これを噴霧して分解・消化を促進します。
膵液の溶解力はきわめて強力です。膵液は本来膵臓の中にある時は役に立つ働きは持たないようになっているのですが、アルコールの多飲などでその仕組みが破綻し、膵臓内で膵液が活性化してしまうと、自分がいる膵臓自体を溶かしてしまうのです。この膵臓内で膵液が活性化する病態を「膵炎」といいます。
一方、膵臓が担うもう一つの働きが「インスリンの分泌」。血糖を下げる重要なホルモンであるインスリンは、膵臓にある「膵島(ランゲルハンス島)」と呼ばれる、その名の通り海に浮かぶ島に見える細胞構造体で分泌されます。これが血管内に流れ込んで血糖を下げる。じつは、体内において血糖を高めるホルモンはいくつもあるのに、血糖を抑える働きを持つホルモンは、インスリンただ一つなのです。
このように膵臓は、膵液とインスリンという、人間に欠かせない二つの分泌を担当する重要臓器です。
そんな膵臓の老化を形態から見ていくと、「脂肪置換」という現象が見られます。
じつは歴史上、膵臓という臓器が正しく認識されるようになったのは他の臓器より遅く、いまからおよそ400年前のこと。それ以前は「脂肪の塊」と思われていました。いまでも、特に肥満傾向の人のお腹の中を見ると、それが膵臓なのか脂肪の塊なのか、一目では判断できないこともあるのです。
しかも、膵臓は本当に脂肪に置き換わる。それが「脂肪置換」と呼ばれる現象で、加齢や肥満が原因とされています。