「テレビいっぱい出ろとか言うのやめてください」副社長にぶつけた言葉
たとえば、2001年、NHKホールでライブがあった日のこと。このとき彼女はドラマの主題歌のオファーを受け、ちょっと切羽詰まっていたらしい。終演後、スタッフらと焼肉を食べに行くと、ちょうどレコード会社の副社長が来ていたので色々と話をするうちについ、「あたしたちはこうやって頑張ってきてるし、できれば音楽をずーっとやっていきたいんです。だからスポット打てとかテレビいっぱい出ろとか言うのやめてください」とぶつけてしまった。すると副社長は「汗ブワッとかなって」(aikoによる表現)、いつもは信頼を置いているスタッフも全員下を向いてしまい、彼女はショックを受ける。《それでガビーン、って家に帰って『見返してやれ!』くらいの気持ちで一気に5曲》書いたという(『ロッキング・オン・ジャパン』2002年5月25日号)。
泣きながら、悲しい悔しいの一心で書いた曲
このとき書かれた曲の一つと思われる「陽と陰」(シングル「おやすみなさい」の収録曲)について、彼女は《すっごい泣きながら作って。悲しい悔しいの一心で書きましたね》と著書で明かしている(前掲、『aiko bon』)。このように落ち込んだときなどにつくられた曲は彼女には珍しくなく、以下の発言にあるように、それをさらにライブで歌うことで昇華させているところがあるらしい。
《私、イヤなことや嬉しいことがあると全部曲にして、そこではじめて気持ちが落ち着くところがあるんです。それをファンのみなさんの前で唄うとさらに違う感情が生まれて、その曲にはファンのみなさんの前で唄った思い出が宿るようになっていく。(中略)だからその出来事が起こった時は悔しかったり悲しかったりしたことでも、曲に変換してみなさんの前で披露することで全然違うものに変形していくんです。ある意味、恋愛の傷が音楽で癒やされていくというか。たとえ現実で悲しいことが起こっても、ファンのみなさんの前で唄うことでマイナスの感情が〈ろ過〉されていく――そういうところがあるんです》(『音楽と人』2021年4月号)