GPSがうまく機能していない…

 そう考えながらも、鳥の鳴き声にびっくりしない程度には平静さを取り戻していた。

 そうなると頭の中も冷静になり、道中、心霊スポット巡りのチャンネルをどうしようか悩み続けた。機材トラブルや待ち時間で疲弊していたことに加えて、心霊スポットへ向かう恐怖心がこのときからどんどん現実味を帯びたものになっていく。そうなると取り戻した平常心は再び恐怖に飲み込まれていく。心臓が高鳴って動悸が止まらない。暗闇が怖い。後ろを振り向きたくない。

「マジで俺、何してんの……?」

ADVERTISEMENT

 そんな言葉がぼそりと出てしまうくらいに、恐怖で震えが止まらなかった。何かを喋っていないと、沈黙と闇に飲み込まれてしまいそうだった。

 立ち止まり、スマホを取り出し現在地を確認しようとしたが、GPSがうまく機能していない。磁場が狂っているせいなのだろうか。圏外の表示が僕をさらに心細くさせた。時刻に目をやると深夜1時半。予定はかなり遅れ、夜はさらに更けていた。

 前方をライトで照らしながら、再びゆっくりと歩き出す。月明かりでうっすらと周りも視認できる。道は完全な廃道になっているようで、ゴミと落ち葉と泥が散乱し一層荒れている。車一台がやっと通れるくらいの幅で、左手には森が広がり右手には古びたガードレールが続いている。ガードレールの下は崖になっていた。

ついにたどり着いた廃トンネルは暗闇がどこまでも続く

 そうして歩いていくと、目の前にぽっかりと黒く空いた穴が見えた。トンネルだ。

「あった……」

 それが見えた途端、もうやめようと思った。心霊スポットを巡るなんて、これっきりにしよう、と。

 トンネルの手前には幽霊が出ると噂される仮設トイレがあったが、今の僕には到底入る勇気などなかった。こうしてついに目的地である廃トンネルの前までたどり着いた。

 まっすぐに続くトンネルはもちろん明かりなどなく、奥がどこまで続いているか見えない。ライトで中を照らすが、その光は暗闇によって数メートルでかき消されてしまい、まったく奥が見えない。トンネルの全長は200mほどだという情報だが、その暗闇はどこまでも続いているようだった。

 切り立った山にぽっかりと空いた大きな穴。穴の大きさは少し大きめのトラックがギリギリ一台通れるくらいだろうか。そこまで大きなトンネルではないが目の前にすると威圧感が半端ではない。

『会社を辞めてバイクにまたがり今日も会いにいく 日本一周心霊ノ旅』より

 枯れ葉が風でガサガサ鳴る音や水滴だけでもびっくりしてしまうくらい、僕は恐怖心に支配されていた。