全身を嫌な感じが包み、背中が痛く、体が重い

 ここまで来たらもう戻れない。

「すみません、お邪魔します」

 意を決し、トンネルの中へ入った。

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 トンネルの内壁には落書きがたくさん書かれている。心霊スポットには落書きが付き物なのかな、と思いながら進んでいくと、100mほど進んだところで落書きがすっかりなくなってしまった。のっぺりとしたコンクリートが続いており、不気味さが増したように感じた。進みながら、足が止まる。

「心霊現象を体験したい」なんて言っていたが、今は何事もなく終わってほしいと願っている。霊感がないはずなのに、全身を嫌な感じが包んでいるように感じていた。背中が痛く、体が重い。

『会社を辞めてバイクにまたがり今日も会いにいく 日本一周心霊ノ旅』より

 そうして、ようやく出口が見えた。すると途端に心に余裕が戻ってくる。

「これじゃあダメだよ……。もっと積極的に心霊現象を体験しにいかないと」

 あんなに恐怖心があったのに、正反対なことを言っている。これがYouTuber という生き方を選んだ者の宿命なのか、何かが僕におかしなことを言わせているのか……。

後ろから足音が聞こえる気がする…

 トンネルを抜けると開けた道に出た。途端に体に寒気を感じる。トンネルの方向からパキパキと音が聞こえる気がする。トンネルを出た先にはさらに山道が続いているが、Uターンして戻ることにした。歩けば、後ろから足音が聞こえる気がする。

 振り返って考えれば、それらは恐怖から来る妄想だったのだろう。けれどそこには、重くのしかかる恐怖があった。復路は往路よりも余裕を持って歩くことができた。けれど背中に異様な痛みを感じていたことも確かだ。

 トンネルの前にカメラを置き、第1回の動画のサムネイルを撮影した。これが僕のYouTube のアイコンにもなっている。

 余裕が出たのか、トンネル前に設置されている仮設トイレも開けることができた。存外綺麗で整備されていた。僕が怖がっているだけで、この周辺はしっかり人の手が入って整備されているのかもしれない。

 こうしてバイク旅最初の心霊スポット、廃トンネルの旅を終えた。このときは、本気でこれ以上の撮影はやめようと思っていた。

 けれど、自分を追い詰めるのが好きな僕は、もう少しだけ旅を続けてみようと思った。

 やっぱり僕は、諦めが悪いのかもしれない。

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