「政局より政策論争が大事」と言われるが、私は政局も重要と考える。誰がどう振る舞うかが分かる千載一遇のチャンスが政局(人間ドラマ)だからだ。昨年の希望の党合流に関するドタバタなんていい例ではないか(もはや懐かしい)。
かつて田中角栄は「政治は欲望の調整作業だ」と語った。そこから著者は密談はその「舞台装置」とし、戦後政治史で33の密談を取り上げ、場所、参加者、内容を紹介する。
保守合同の三木武吉(ぶきち)と大野伴睦(ばんぼく)の密談は大人の教科書があったら全文載せたい。「狸爺」「雲助野郎」と罵倒し合うほど仲が悪い二人が社会党政権を回避するためにじりじりと接近する。
「三木は迫真の演技で大野をかき口説き」とあるが、大野も一世一代の口説かれる演技をしたのだろう。腹の探り合いが人によっては魅力的にみえる。
読者は次第に気づくはずだ。密談を通しての政治家の器量の大小を本書で堪能したいことを。
政権争いに敗れた中曽根康弘は軽量ポストといわれた行管庁長官に就任させられるが、逆手にとって財界主流への食い込みを企てた。土光臨調と進めた行革は中曽根の政権獲りの最大の武器となったのだからこれも立派な密談である。
そのポスト中曽根を狙う竹下登、安倍晋太郎、宮沢喜一の話し合いがあった。竹下は事前に金丸信に「安倍が降りると言うまで絶対に降りるな」と言われ、安倍は「9時間に及んだ話し合いの中で、おれが降りようという言葉が何度ものどまで出かかったけど、最後まで言えなかった」と後日竹下に漏らした。
一本化は不調となり中曽根の指名に託すことに。あれは首相退任後も影響力を保ちたい中曽根が誘導した密談利用だったのかもしれない。
「密談は人間の素顔が映し出される生のドラマである」と著者はいう。
そういえば最近ワクワクする密談情報って無いよなぁ。
しおたうしお/1946年高知県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。編集者、記者などを経て、ノンフィクション作家に。『霞が関が震えた日』で講談社ノンフィクション賞受賞。著書多数。近著に『国家の危機と首相の決断』。
ぷちかしま/1970年長野県生まれ。時事ネタ好きのお笑いタレント。新聞12紙を購読し著書に『芸人式 新聞の読み方』がある。