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テレビっ子歴50年! 小説家・高橋源一郎「朝まで生テレビに出るわけないでしょ」

テレビっ子・高橋源一郎インタビュー #1

note

学生運動もして、テレビも観て、漫画も読んで

―― 学生運動は高校の頃から始められたんですか?

高橋 灘高時代、高2ぐらいからですかね。69年の3月の卒業なので、68年の4月に高校3年生になって……、だから高2の秋からですね。学生運動が盛んになってきた頃に、関西でもやろうと。

―― 学生運動中もテレビは観てました?

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高橋 もちろん観てました。大事なのはテレビですから(笑)。だから、政治もやって、テレビも観て、漫画も読んで。で、ちゃんと試験も受けて。デモ行った次の日が試験とかありました。デモ中に単語帳見て暗記したり(笑)。 

 

―― 学生運動の仲間たちは、テレビをバカにしたりしてなかったんですか?

高橋 そこは分かれますね、完全に僕と一緒に何でも観ちゃう人とほんとに全く観ない人に。「あんなつまらないもの観るな」というマジな人。漫画も読まないで、政治の本だけ真面目に読む。彼らと付き合うのはなかなか苦痛でした(笑)。基本はいい人たちなんですけど、真剣の方向性が違うんじゃないかって思っていたんですけどね。でも、両方やる人もいるんです。要するに、政治党派幹部みたいなのでガチガチのことを言ってて、でも漫画を読むっていう人。こういうのは得難い面白い人で、話が合うんです。「松竹新喜劇いいよね」「ドリフ最高だよね」「タイムボカンはいいよね」とかがないと、なかなか理解は難しいですね。

―― 学生運動の人たちの間で『少年マガジン』に連載されていた『あしたのジョー』が人気があったって話を聞くんですが、そうだったんですか?

高橋 そう、『あしたのジョー』はみんな読んでました。1969年11月に大きなデモをやって、一晩で3000人ぐらい捕まったんですよ。僕も捕まったんですけど、未成年だったから、留置場の後、少年鑑別所に取りあえず入れられるんです。その時の少年鑑別所、普段は普通の非行少年が来るんだけど、ほぼ全員、学生運動の学生という異常状態だったんです。で、その時話題になったのが、『あしたのジョー』。ちょうど力石徹と矢吹ジョーの決戦の途中で捕まっちゃったので、「あの結果はどうなったんだ」と。みんな自分の身の上じゃなくて、力石とジョーの対戦のほうを気にしてた(笑)。もともとあの2人は少年鑑別所で会ってるという境遇も、みんなを興奮させたのかな。この間、ちばてつやさんご本人にお会いした時に言いましたよ。「今まで一番悔しかったのは、あの回をリアルタイムで読めなかったことだ」って(笑)。

 

『朝まで生テレビ』に出るわけないでしょ

―― 学生運動に参加していた頃って、政治番組とか討論番組は観ていましたか?

高橋 観ないですよ、そんなの!

―― そんなの(笑)

高橋 あれは、政治に興味がない人間が観るものです。本当に政治に関心がある人は外に出て動いていますよ。

―― なるほど!

高橋 あんなの観ても何の役にも立たない。そんなものを観るならドリフを観るべきですね(笑)。僕はああいう討論番組で語られる政治の言葉を極端に嫌悪してたからね。

―― 今まで『朝まで生テレビ』からのオファーはありませんでしたか。

高橋 出てくれという話もあったけど、出るわけないでしょ。バカみたいだし(笑)。僕にとって大切なテレビで、政治の話なんかしたくないです(笑)。

 

#2 “競馬する小説家”高橋源一郎が語る『うるぐす』とダービーと『カルテット』
http://bunshun.jp/articles/-/7504

#3 「ユーチューバーはテレビの未来を担うか?」小説家・高橋源一郎の“生活と意見”
http://bunshun.jp/articles/-/7505

写真=鈴木七絵/文藝春秋

たかはし・げんいちろう/1951年広島県生まれ。81年『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長編小説賞優秀作を受賞しデビュー。88年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、12年『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎潤一郎賞を受賞。6月7日より『日本文学盛衰史』が平田オリザ脚本によって舞台化される(http://www.seinendan.org/play/2018/01/6542)。

テレビっ子歴50年! 小説家・高橋源一郎「朝まで生テレビに出るわけないでしょ」

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