そう考えたのは山岸ばかりではない。「判決に怒りを覚えた」という狩猟免許を持つ本州の弁護士も手弁当で池上の弁護団に加わった。

 二審の判決が出た後、砂川市の現場を視察した北海道猟友会の堀江篤会長は「(バックストップも含めて)この現場の条件で撃って、ダメと言われるのなら、とてもじゃないけど(駆除は)やれないよね」と漏らしたという。

写真はイメージ ©iStock.com

 そして北海道猟友会は、自治体からのヒグマの駆除要請を原則拒否するよう各支部に通達を出す方針を固めたのである。山岸はハンターの立場をこう代弁した。

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「やっぱりある種の善意でクマの駆除に協力してきたのに、こういう形で行政にハシゴを外されて、すべての責任をハンターに押し付けられるのはたまったもんじゃないですよね」

駆除を猟友会に丸投げしてきたツケ

 一方で現在環境省では、昨今の市街地におけるクマの出没多発を受けて、従来は原則禁じられていた市街地での発砲をできるように鳥獣保護管理法を改正しようとしている。

「それだって、誰の責任で発砲するのか。警察なのか、自治体なのか、そこをはっきりさせてくれないと、また第2、第3の砂川事件が間違いなく起こると思います。何よりもそういう曖昧な状態でヒグマを相手にすると、ハンターの生命が危険にさらされる。いずれ大事故に繋がりかねないと私は危惧しています」(同前)

牛を襲い続けたOSO18の姿(標茶町提供)

 11月25日、道猟友会は、自治体や警察との連携が不十分な場合は、ヒグマ駆除への出動を拒否するよう全71支部に対して通知することを正式に決定した。これを受けて一部の支部では「現状では要請を拒否せざるを得ない」と“出動拒否”の動きが早くも広がり始めている。

 本来、有害な獣から住民の生命と安全を守るのは、自治体や警察など行政の仕事であるはずだ。その重要な仕事を、いち民間団体である猟友会に長年丸投げしてきたツケが回ってきたのが、今回の「駆除拒否」騒動であるという見方もできる。

 最後に山岸はこう語った。

「我々はクマの駆除をしたくないと言ってるんじゃないんです。リスクのある仕事をする以上、法整備も含めて持続可能な体制を作るべきだし、それが行政の仕事なんじゃないですか? という話です。このままでは、ヒグマを撃てるハンターは絶滅してしまいます」

 長年に渡って放置されてきた法と責任の“真空地帯”――今、その間隙をつくようにヒグマは人間社会とクマの境界を踏み越えつつある。その境界を守る最後の砦であるハンターを孤立させてはならない。

(文中敬称略)

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