〈本件発射行為当時、本件ヒグマがいた位置と本件一般住宅との間には、仮に何らかの物が存在していたとしても、土手などの弾丸を遮るに足りる構造物は存在しなかった〉
〈仮に何らかの物が存在していたとしても〉とは8mの斜面のことを指すのだろうか。山岸もこう首をひねる。
「今回、この判決を出した裁判官は現場検証をしていません。なのになぜ、斜面がバックストップにならないと判断できるのか、私には疑問です。確かに鳥獣保護管理法には“バックストップがない場所で撃ってはいけない”と書いてあるんですが、では幅何mで高さが何mあれば、バックストップと認められるのかという具体的な規定はないんです」
一方で判決文の中で裁判官がしきりに強調しているのが跳弾の可能性だ。
〈(現場斜面には草木が繁茂し、石も散乱していたため)跳弾が起こりやすい状況であったことを考慮すると、本件発射行為による弾丸は、本件ヒグマに命中したとしても、その後弾道が変化するなどして、本件周辺建物5軒、特に本件建物や本件一般住宅に到達するおそれがあったものと認めるのが相当である〉
〈なお、(各文献によると)跳弾は、飛んでいく方向が分からず、複数回起こり得ることからすれば、本件ヒグマがいた位置と本件周辺建物5軒の間に本件斜面の地面があったとしても、直ちに本件周辺建物5軒に跳弾が到達するおそれがなくなるともいえない〉
要は、跳弾というのはどこに飛んで行くかわからないのだから、撃った弾丸がヒグマを貫通し、8mの斜面を超えて、さらに60m離れた建物群に到達することだってありうるという理屈である。あえて言うならば「跳弾万能説」だ。
そもそも跳弾したのであれば、現場に弾丸の破片などが残るはずだが、それは見つかっていない。
「日本でクマを撃つことは不可能になる」
この「跳弾万能説」に山岸は異を唱える。
「ライフルの最大到達距離は約3kmから4kmですから、この理屈に従えば、少なくとも半径3km以内にハンター以外の人、住宅、建物、構築物など獲物以外のものがある場所では撃てないことになる。事実上、日本においてクマを銃で撃つことは不可能になります」
