これを不服とした池上は処分取り消しを求めて、北海道を相手取って裁判を起こした。これが「砂川事件」の概要である。ちなみに前出の山岸と池上は同じ猟友会砂川支部に属しており、この件でも山岸は池上を全面的にサポートしてきた。
「ポイントは駆除を判断したのは誰なのか、ということです。法律上、有害鳥獣の駆除の主体は自治体であり、このときも砂川市の職員の要請で撃っている。にもかかわらず、池上さんの猟銃所持の許可が取り消されたのは不可解です」(山岸)
池上氏の主張を認めた第一審判決
池上の訴えを受けて2021年12月に開かれた一審では、池上の主張が認められ、札幌地裁は「(公安委の処分は)著しく妥当性を欠くもので違法だ」と断じた。
裁判官は現場検証を行ったうえで、ヒグマの背後には高さ約8mの斜面があり、池上が撃った位置からは斜面の上にある建物はほとんど見えないことを指摘。さらにその斜面が「バックストップ(弾が外れたり、獲物を貫通した際に受け止めるもの)」として機能することを認めた。
北海道公安委員会が指定する射撃指導員の資格を持つ山岸はこう語る。
「クマは斜面の中腹ほどにいましたが、池上さんとの距離は約18mあり、角度としては上方に10度未満で、ほぼ水平に撃つ感じでした。仮に弾が貫通したとしても8mのバックストップを超えて、さらに斜面の上を通る市道の向こうにある問題の建物まで60m以上も飛んで行くことは、ありえないと言っていいと思います」
一審もまた山岸と同様の判断をし、「池上の撃った弾が斜面の上の建物に到達する可能性があった」という北海道側の主張を斥けた。また発端となった橋本の証言についても「信用に値しない」とこれを採用しなかったのである。
敗訴した北海道側は即日控訴、争いは高裁に持ち込まれた。
第二審では逆転敗訴
そして2024年10月18日、札幌高裁は一審の判決を覆し、池上は逆転敗訴を喫した。
この二審では、現場の斜面を「バックストップ」とは認めず、池上の撃った弾が跳弾して斜面の上の建物に到達するおそれがあったと指摘した。判決文にはこうある。

