「驚きを通り越して呆れた。今後我々はヒグマの駆除はできなくなるが、それでもいいのか?」
10月18日に札幌高裁が出した判決に対し、北海道猟友会会長・堀江篤氏は語気強く語る。猟友会メンバーがヒグマを駆除した際の発砲が危険だったとして、北海道公安委員会が猟銃の所持許可を取り消した処分を、札幌高裁が法的に妥当だと判断したのだ。
全国的にクマの出没が問題となっている今、北海道で一体何が起きているのか。住民の安全は、誰がどのように守るべきなのか。元NHK「ダーウィンが来た!」ディレクターで、ヒグマを撃った経験のあるハンター・黒田未来雄氏が、関係者の声を聞くとともに駆除が行われた現場を取材した。(全2回の2回目/前編から読む)
◆ ◆ ◆
焦点となるのは「バックストップ」と「跳弾の危険性」
取材者である私は、2017年から銃による狩猟をしているハンターだ。ヒグマの駆除に携わったことはないが、狩猟で獲ったことはあり、ヒグマについてある程度の経験は持ち合わせている。今回の札幌高裁による判決が妥当なのか、客観的に確かめたいと思い、池上治男氏に取材を申し入れ、問題の現場も見させてもらった。
知りたかった点は大きく2点。「バックストップが機能していたのか」と「跳弾の危険性はあったのか」についてだ。
まずはバックストップについて。発砲した場所について斜面を見た瞬間、これをバックストップと言わずして何をバックストップと言うのか、との印象を受けた。弾道方向には建物の屋根は見えず、ストーブの煙突の先端がかろうじて見えるのみだった。斜面は急で、高裁の言う通り、上部に向けて斜度が緩くなっている。しかし斜面最上部から3メートル下がった位置であれば、私としては全く問題ないように感じた。
また今回は、住民の不安が募り、駆除しなくてもいいのでは、と言う池上氏を市職員が説得したほどの緊急事態だ。同行した警官も住民を避難させ、池上氏が発砲できるように動いている。周囲を人間に囲まれ、異変を感じたヒグマは必死に逃げようとしているだろうし、ササ藪の中に隠れたクマは極めて見つけにくい。その状況下で、高さ3メートルの斜面を背にしてヒグマが立ち上がるという、願ってもない好機が訪れたのだ。その瞬間に発砲しなければ、ヒグマは再び身を隠し、現場は膠着状態に入り長期戦を余儀なくされただろう。そのまま逃げ切られる可能性も十分にあり得るし、そうなれば住民の不安は解消されず、安全も確保されない。本当に、それでも発砲しない方が良かったのだろうか。