「驚きを通り越して呆れた。今後我々はヒグマの駆除はできなくなるが、それでもいいのか?」

 10月18日に札幌高裁が出した判決に対し、北海道猟友会会長・堀江篤氏は語気強く語る。猟友会メンバーがヒグマを駆除した際の発砲が危険だったとして、北海道公安委員会が猟銃の所持許可を取り消した処分を、札幌高裁が法的に妥当だと判断したのだ。

 全国的にクマの出没が問題となっている今、北海道で一体何が起きているのか。住民の安全は、誰がどのように守るべきなのか。元NHK「ダーウィンが来た!」ディレクターで、ヒグマを撃った経験のあるハンター・黒田未来雄氏が関係者の声を聞くとともに駆除が行われた現場を取材した。(全2回の1回目/後編に続く)

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地元住民がヒグマの出没地点を指差す ©黒田未来雄

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市の要請「子グマであっても駆除してほしい」

 まずはこれまでの経緯についてまとめる。多少複雑ではあるが、今回の一件を理解するのには必要なことと思われるので、ご容赦いただきたい。

 ことの発端は、6年前にさかのぼる。

 2018年8月21日早朝、北海道猟友会砂川支部支部長の池上治男氏は、住宅が点在する山間部にヒグマが出没しているので駆除してほしいと、砂川市の要請を受け出動した。

 現場には、池上氏以外にも、市役所職員、警察官、もう1人の猟友会ハンター(A氏)の3名がいた。ヒグマはまだ1歳にもならない子グマだったため、池上氏は駆除の必要性はないと判断した。しかし市職員は、その地域で2日前からヒグマの目撃が相次ぎ住民の不安が高まっているため、子グマであっても駆除してほしいと要請、池上氏は駆除の決断をした。

2018年8月、箱罠前のヒグマ(池上治男氏提供)

 子グマはササが茂った斜面に隠れ、池上氏は銃を持って斜面の下の空き地に入った。斜面の上には道路があり、その先には民家もあった。そこで市職員と警察が民家を回り、住民に家の中に隠れるように指示し、その後、自分たちの安全を確保するため斜面上の物置の陰に隠れた。もう1人のハンターA氏は池上氏の指示により、ヒグマが斜面の上の道路に逃走しないかを警戒するため、銃を持って斜面の上に回った。