高知県南国市の後免(ごめん)町の人々が実施している「ハガキでごめんなさい」全国コンクール。ダジャレが大好きだった漫画家・故やなせたかしさん(1919~2013年)が「故郷のまち起こしのために」と発案し、「言いそびれた『ごめんなさい』」をハガキで募集してきた。
2023年度はちょうど第20回目を迎え、それまでに寄せられたハガキは計3万3820通に達した。これら大量の「ごめんなさい」はどのような内容だったのか。
犯罪、潰した豆腐、浮気の告白…直接言えない「ごめんなさい」
「えっ、と思ったのは犯罪です」
徳久衛(とくひさ・まもる)さん(64)が言う。徳久さんは生前のやなせさんと南国市で最も親しく交流していた人だ。後免の人々で作る「ハガキでごめんなさい実行委員会」(西村太利委員長)では副委員長を務め、実質的にコンクールの中心になってきた。
「第10回までのいつかだったと思います。殺人ではありませんが、『罪を犯した』と書いてありました。前科何犯。『刑務所から出てきた』とも記されていて、『ごめんなさいと言いたい』という内容でした」
最近はそうしたハガキは届いていないようだが、もし重大犯罪を自白する内容だったらどうなるのだろう。コンクールの事務局が置かれている南国市観光協会の担当職員、竹中瑞紀さん(31)は「ハガキには住所を書いてもらっているので、身元が割れてしまいますね」と話す。
もっとも「近所の商店で27年前に豆腐をつぶして逃げたのは私です」(第7回大賞)などというような軽い罪を白状するハガキはかなり寄せられる。
浮気の告白もある。
「配偶者や元配偶者に『ごめんなさい』と謝る内容です。審査で読んでいて、『ハガキに書くより、本人に謝ったらいいのに』という気持ちになります」と徳久さんは言う。
南国市観光協会の安岡知子・事務局長(41)は「不倫ではないのですけれど、初恋の人に宛てたハガキもあります。『あの時、なぜあなたのもとへ走らなかったのか』ということも書かれていて……」と複雑な表情だ。
現在、そう思わざるを得ない環境に置かれているのかもしれないが、配偶者や子供が読めば傷つく場合もあるだろう。だからこそ直接言わずに、「ごめんの町」へ送るのか。
「あなたを選んでよかった」57年前の愛のエピソード
逆に、「あなたを選んでよかった」というハガキも届く。
<妻よ、五十七年前、お前が二十歳のとき、入院した病院で看護師していたお前に初めて会って、一目惚れしてラブレター出して、「うれしい!」と返事くれて、それがおれたちの長い愛の歴史の始まりになったんだよね?
実はあのとき、おれはお前と同室だったN子さんへ、お前の名前とまちがってあの手紙を出したんだ。今まで黙っててごめん! けどな、すぐにまちがえてよかったと思い、今でも人生最高のヒットと嬉んでるよ。夫>(第14回優秀賞)
内容からすると、応募時に妻は77歳の計算になる。夫妻とも元気であるならば、直接伝えてほしい「ごめんなさい」だ。