高知県南国市の後免(ごめん)町で行われている「ハガキでごめんなさい」全国コンクール。
発案者はここで育った漫画家・故やなせたかしさん(1919~2013年)だ。言わずと知れた『アンパンマン』の生みの親である。コンクールでは2003年度の第1回から第5回まで審査委員長を務めた。
その5年間にやなせさんは、どんなハガキを選んだのか--。
やなせさんが選んだ第1回のハガキ
第1回は2676通、第2回は2122通、第3回は2539通、第4回は2324通、第5回は1837通。大量のハガキが寄せられた。これらは地元のまちづくり委員会の選考委員が30通ほどに絞る。それから東京のやなせさんのもとに送って最終審査をしてもらっていた。
「やなせ先生は心底悲しい話を選びませんでした」
取り組みの中心になってきた徳久衛(とくひさ・まもる)さん(64)が言う。
「私達、地元の選考委員は『心からのごめんなさい』だと思うような話は、悲しい内容でも残しました。でも、先生が賞に選んだ中にそうしたものは含まれませんでした。くすっと笑えるハガキや、共感できる話が多かった気がします」
具体的に見てみよう。
第1回は「大賞」1点、「優秀賞」6点を、やなせさんが選んだ。
大賞は、父親が再婚を考えた女性に冷たい態度を取ってしまった娘のハガキだ。父親はそのまま独りで老いることになり、娘は「ごめんなさい」と言えないでいた(#1)。
では、優秀賞はどんな内容だったのだろう。
こっそり 夫のケータイ見ちゃいました…
そしたら中を開けてビックリ!!
だって、メールボックスは
私からのメールで いっぱいだったから。
浮気してるかも…
なんて 疑ったりして
本当に ゴメンなさい…
水滴の男女が仲良く並ぶイラストが、かわいらしく描かれていた。微笑む男性の横で、頬を赤らめた女性が謝っている。
このコンクールにはイラストを添えて応募する人が多い。やなせさんという漫画家が発案したからかもしれない。
フーちゃんへ。きっかけは忘れたけれど、いつからか友だちになっていたよね。それなのにいつか大げんかした時 写真の顔黒くぬりつぶしちゃったの。けんかの理由も忘れたけど なんでこんなことしたのかなと、ずっと心の中にひっかかっていました。大切な想い出の写真だったのに
本当に ごめんなさい!
丸顔の女性が両手を合わせて謝る姿が柔らかいタッチで描かれていた。