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暗闇でろうそくを見つめ、最後はみんなで涙を流す

 そして、この過酷な、文字通り過酷な研修の最後の仕上げがまた異様である。

 それは真っ暗闇でろうそくをただ見つめるというものである。

 真っ暗な部屋でろうそくを見つめる。ひたすら見つめるという研修。何の意味があるのか、疲れ切った従業員たちには考える力もなく、ただ言われたとおり見つめるのである。

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写真はイメージ ©︎hanasaki/イメージマート

 自分の考えなど必要ない、ただ見つめることを命じられたから見つめるのだ。それ以上の意味は要らないのである。長時間、暗闇でろうそくを見つめると、不意に明るくなる。すると、眼前に、社長以下、会社の幹部が立っているという。

 新人従業員たちの反応はどうか?

 それは、社長らに対し、「迎えに来て下さって、ありがとうございます」と涙を流して述べるという。

 ここに晴れて会社に忠実な従業員が生まれるのである。もう彼らには会社の常識がすり込まれている。会社が右と言えば右を向くであろうし、カラスを白いと言えば白いと言ってしまうのであろう。ちなみに、眠らせないとか、暴力を振るうとか、暗闇でろうそくだけを見つめさせる(感覚遮断)などは、洗脳手段として有名なやり方である。これらは業務上必要な範囲を超えた行為を従業員に強要するものであるから、違法と言うべきだ。

 この話をきいたのはもう何年も前である。本稿を書くにあたり、この会社は今もあるのだろうかと思い立ち、先ほど検索してみた。

 まだ、立派に存在していた。

 彼女たちの裁判は和解にて終了した。そのため、企業名は出せないが、この会社は今も社会に存在しているのである。