コンプライアンス意識が広がりつつある日本社会にあってなお、いまだ「ブラック」な対応を続ける企業はなくならない。労働被害の撲滅に取り組む弁護士たちが対峙する、世にも恐ろしい現実とは……。
ここでは、ブラック企業被害対策弁護団の著書『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を抜粋(本記事執筆:佐々木亮)。都内を中心にマッサージ店を展開する企業が行っていた“奇妙すぎる風習”について紹介する。(全4回の2回目/続きを読む)
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「欧米?」と口ばしってしまった奇妙な風習
ブラック企業と一口に言っても、様々あるが、私自身がけっこう衝撃を受けたエピソードを含むブラック企業を紹介しようと思う。
それは、都内を中心にマッサージ店舗を展開する某企業の異常な”風習”の話である。
私の同僚の弁護士のところに、ある若い女性労働者らが相談に訪れた。彼女たちは、弁護士に残業代の不払いを相談に来たというのである。私も同僚弁護士から声をかけられ、その相談に同席した。
話を聴くと、どうやら彼女たち自身の残業代が未払いであるというのは普通(?)の話なのであるが、どうも彼女たちは会社に命じられて、他の従業員の残業代を「削る」作業に従事させられているというのである。上司いわく「あいつらの働きに100%払う必要はない」と。
これだけでも相当ヒドい話なのであるが、まぁ、私も労働事件をたくさんやっている弁護士の端くれであるから、そのくらいの話では驚かないわけである。むしろ、そのくらいであれば、ドンと来い! というくらいの気持ちを常に持ち合わせている。
しかし、彼女たちの繰り出す話はそれだけではなかった。
その会社では、彼女たちが嫌っている行事が月1回行われているという。彼女たちの話によると、毎月1回、社員一同を集めて会議が行われる。
その会議の最後に、社長(男性)が社員全員をハグするという恒例行事があるというのだ。
つい、私は「欧米?」と言ってしまった。
ナチュラルにタカアンドトシっぽくなりそうなところを寸前で抑え、「欧米?」で留めたが、彼女たちは真面目に「日本です」と回答してくれた。
具体的にはこうである。その会議の締めで、社員を社長の前に一列に並ばせ、次々ハグするというのである。社長のそのハグは、全社員に対してやるので別に女性だけではないという。しかし、やはり日本人的感覚ではハグされるのに抵抗があるようで、彼女たちや一部女性従業員は、何とか回避できないかと思考を巡らせるのだそうだ。
あるとき、彼女たちはその列にしれっと加わらない、というチャレンジをした。たくさん従業員がいるから、数名「ハグ忘れ」があったとしてもバレることはない……というのが彼女たちの狙いである。
しかし、である。残念ながら、社長はハグをしていないかどうかを判別する能力に長けており、何食わぬ顔で列に並んでいなかった彼女たちに向かって「おい、お前たち。まだだったよな」と声をかけ結局、彼女たちはハグを食らうはめになったというのだ。
意に反するハグを食らった彼女たちは、これはもう逃げようがないんだ、と悟ったという。