コンプライアンス意識が広がりつつある日本社会にあってなお、いまだ「ブラック」な対応を続ける企業はなくならない。労働被害の撲滅に取り組む弁護士たちが対峙する、世にも恐ろしい現実とは……。

 ここでは、ブラック企業被害対策弁護団の著書『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を抜粋(本記事執筆:笠置裕亮)。暴力、いじめ、セクハラを繰り返した末に、荒唐無稽な理由での解雇通知を行ったパチンコ店店長のエピソードについて紹介する。(全4回の4回目/1回目を読む

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暴力、いじめ、セクハラとやりたい放題

 弁護士という職業の面白いところは、自分1人の人生だけでは体験できない、様々な人生を追体験できるところにあると感じる。私自身、労働事件を担当する中で、いろいろな人生勉強をさせてもらった。今回は、中でもとりわけ衝撃を受けた事件について紹介しようと思う。

 私は、月に2回、神奈川県内のとある地域の労働組合の事務所にて、法律相談を担当している。ある日、組合事務所のもとに、パチンコ店のホールで働いていたという1人の若い女性が相談に訪れた。

 用件を聞くと、勤めていたパチンコ店から解雇されてしまったという。会社との間でどのような契約が結ばれているかを確認しようとするも、契約書の類いは見たことがないし、もらった覚えもないとのこと。これでも明確な労働基準法違反であり、ひどい話なのであるが、年間50件ほどブラック企業を相手にする裁判を担当している私の目から見れば、残念ながら「よくある話」である。

 しかし、もちろん、話はそれだけではない。彼女によれば、店長が1年程前にとある男性(A店長としておこう)に代わってからというもの、様々な嫌がらせを受けてきたという。

写真はイメージ ©︎hanasaki/イメージマート

 まず、日常的な暴力。特に理由があるわけでもないのに、彼女はA店長から日常的にサンドバッグにされてきたという。それも、ただのパンチではなく、その筋の方々がやっているように、人差し指と中指で親指を包み込むように拳を握り、人差し指と中指を少し浮かせた状態で殴ることで、殴られたときの衝撃を倍加させるやり方で彼女を殴るのである。路上で行われているケンカではない。職場で彼女が日常的に受けていた暴力である。