しかし、本当の衝撃はここからである。
彼女は、A店長からシフトを減らされたことについて、専務に相談しに行った。専務の方は適切に対処したようで、A店長に対し、彼女のシフトを元通りにするよう注意した。これを受け、A店長から彼女に交付されたシフト表は元に戻されていた。
ところが、「その代わりに……」と言ってA店長が彼女に手渡したのは、解雇予告通知書であった。
解雇理由は「目押しができないこと」
その中には、数十項目にもわたる解雇理由が長々と書かれていた。中には、まったく心当たりのない事実も書かれていた。これでは自分が解雇された理由が良く分からないと考えた彼女は、A店長に対し、最も重視された解雇理由は何なのかと尋ねた。
これに対し、A店長は「目押し(筆者注:回転するリールの特定の絵柄を有効ラインに狙い撃ちすること)ができないことだ」と、冷たく言い放った。
私は衝撃を受けた。パチプロよろしく、スロットの目押しができないことには、パチンコ店のホール業務やカウンターでの景品交換業務もままならないのか……と(編集部注:そもそも、ホール業務の一環として店のスタッフが客の代わりに目押しを行うことは法律で禁止されている行為)。
この話を聞きながら、私は昔、当時大いに流行していたポケ〇ンの中で出てくるスロットの目をうまく合わせられず、ゲーム友達から馬鹿にされ、対戦に入れてもらえなくなってしまったという悲しい記憶を思い起こしていた。
このパチンコ店は、本当は小学校なのではないかと訝しみ、私も現場を確認したが、小学校などではなく、きちんとした(?)パチンコ店であった。寒風吹きすさぶ中、パチンコ店のきらびやかな照明を見つめながら、私は、ブラック企業に勤めながら給料をもらって生活するというのは、かくも大変なことなのだと実感し、身が震える思いを味わった。
私は、パチプロの技術がなければパチンコ店で働いてはダメだという理屈はさすがにおかしい上、彼女がA店長から受けてきた被害の数々は救済されるべきだと思い、裁判所に労働審判を申し立てた。
申立てをした1週間後、専務はA店長を伴って私の事務所に急ぎ駆けつけ、話し合いによる解決を求めてきた。
何度か協議が行われたが、会社としては、この種の事件としては異例の水準の金額を支払って事を収めたいとのことであった。そうであれば彼女も納得するということで、本件は労働審判期日前に異例のスピード解決を見ることとなった(会社は解雇を撤回し、会社都合にて円満退職とする代わりに、解決金を支払うという内容で和解)。
本件は裁判外で和解にて終了したため、会社名を公表することはできないが、今も存在する会社である。本件をきっかけに、会社が管理職を適切に管理する体制を作ってくれればと強く願う次第である。