大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ進み、京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院で生命機能研究科および医学系研究科の教授を長年務めてきた、仲野徹さん(現大阪大学名誉教授)。ご自身曰く専門の「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学に関する著書も多く、ノンフィクション書評サイト「HONZ」や新聞書評に執筆するなど、大の読書家としても知られている。

面白くて、気づいたら深夜になっていました

ドラマ10「宙わたる教室」(NHK総合 毎週火曜 夜10:00~)より定時制高校科学部の実験シーン

 そんな仲野先生が好んで読むのはノンフィクション、とりわけ伝記で、「ふだん小説はあまり……」というが、伊与原新さんの青春科学小説『宙わたる教室』については、早くから絶賛のコメントを寄せていた。

「読み始めたら面白くて、気づいたら深夜になっていました。(伊与原さんが小説の着想を得た定時制科学部のある)大手前高校の全日制だったので、同じ教室を定時制が使っていて、机に物を置いて帰ったらあかんかったことも思い出したり(笑)。伊与原さんの専門がいかされた壮大な『実験』の話、最高でした。映画にしてほしい」

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 実験部分だけは少し分かりづらいという声も上がった本作だが、仲野先生はさすがの理系脳(?)で「ぜんぜん問題なかったですが、言われてみれば難しいかも!? 一瞬、鉄球が発射されるから、引力は関係ないんちゃうかと思ったのですが、砂の巻き上がりかたを調べるんやから、大いに関係ありますね」と、さらりと返してくれた。

 こうして『宙わたる教室』単行本の初版帯には、「伊与原さんの専門がいかされた壮大な『実験』の話、最高でした」という、仲野先生のコメントが掲載されることとなったのだ。

『宙わたる教室』は最初の帯から課題図書帯→ドラマ帯と重版を重ね続けている

「ベタなのですが、それにはちょっと理由が――『実験』とカギ括弧付きにしたのは、高校生が本の中でおこなう実験だけに意味を限定させないためです。というのも、理科教師の藤竹が、定時制高校における教職を自分にとっての壮大な『実験』として捉えていたのではないか、という印象を持ったからなんですね。最後までストーリーを知ると、そう感じられる方も多いのではないでしょうか。短いコメントでは、ぜんぜん言い尽くせてませんけど、気持ちとしてはそうやった、ということです」