たとえばヒョウでもシマウマでも、ナマケモノだっていい。野生動物が持っているボディや手指、角、爪のラインは、なめらかな躍動を示してなんとも美しい。大樹の枝ぶりや双葉のシルエットなど植物が生む造形にも、思わず見入ってしまう。

 自然物が生み出すそうしたラインを、画面の中に持ち得ているのがアーティスト川内理香子の作品。東京・江戸川橋駅にほど近いギャラリーWAITINGROOMで、個展「Tiger Tiger, burning bright」を開催中だ。

 

画中の線が「生きている」理由

 川内には針金やゴムチューブ、ネオン管なども使った立体作品もあるが、創作の中心はドローイングやペインティングといった絵画作品となる。描かれるのは人物のシルエットらしきものや、鳥や獣や樹木、または食べものとさまざまで、すこし抽象的なことが多い。「これは何だろう」と、観る側が想像で補わねばならぬ部分がけっこうある。

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 不思議な形態を見て、あれやこれや考える愉しみがあるということだ。くわえて注目すべきは、彼女が引くラインそのもの。

 ときに力強くひと息に引かれ、ときには微風にも揺れてしまいそうなほどか細く頼りなげと、作品ごとに多様な表情を見せる。強弱や勢い、筆の軌跡だけで観る側の心を躍らせることができる線だ。

 

 川内が生む多様で自在なラインはちょうど、野生動物の無駄のないシルエットや、ルーペで拡大した花の雄しべ雌しべの曲線美と同じ質感を持つ。人知でコントロールできぬ生々しさにあふれている。川内の一本ずつのラインにも、生命が宿っているように感じられてくる。そうか画家とは、画面の中では「造物主」のようにふるまえるのだと思い至る。