神話の中からやってきた動物たちがモチーフに
川内理香子が描くラインの生々しさは、いったいどこからやってくるのか。おそらくは徹底的な観察、それに体感だ。
作品から察するに、川内はいつだって周囲をよく見てしっかり理解していく、そんなタイプと見受けられる。日々さまざまなものを見ていると、ときに自分の心にひどく突き刺さりドキッとさせられるものがあって、きっとそれが作品の素になる。川内はそこで、ドキッとした瞬間の自分の心の動きまでをもよく眺め覚えておいて、その観察結果をも作品に反映させているんじゃないか。
それで彼女の線には、外界のかたちをしかと捉える的確さと繊細さ、動きを感じさせる力強さ、観る側の感情を強く揺さぶる切実さが同居することとなるのでは?
今展に掲げられている新作は、各地に伝わる神話が作品のヒントになっているという。動物たちが活躍するさまが多くモチーフにとられているのはそれゆえだ。
画面に描かれた動物や樹木や甕などは一つひとつどれもかわいらしいし、色目もさわやか。会場に佇んで、そうした作品に囲まれるのはひたすら快い。
ただし、あまり油断しすぎぬよう。心地よく身を浸していると、ある時点から様相が変わる。モチーフをかたちづくっている描線は、眺めれば眺めるほど生々しさを増して、いまにも動き出しそうに見えてくる。かわいらしいはずの動物や樹木からも、ふだんは覗き込めない人の心の奥底から這い出てきたような不気味さが滲み出る。
一点ずつにたくさんのものが織り込まれていて、時と場合によって何が飛び出してくるかわからない、まさに神話や昔話のような作品が並んでいるのである。時間をかけてじっくり対話をしてみたい。