漫画家のやなせたかしさんが高知県南国市の故郷、後免(ごめん)町の「地域起こしに」と提案し、地元の人々が開催している「ハガキでごめんなさい」全国コンクール。2024年度で第21回を迎えたが、開催年数が経つに連れ、選者の世代交代などで、かつては選ばれなかったようなハガキが入選しはじめた。人はどのような話に心を動かされるのか。「感動」は時代によって変化し、「ごめん」を使う場面も変わっていく。
審査中に「あの人が泣くのか」と驚いた
「審査中に泣いた人は初めて見ました。普段は涙など見せそうにない人なのに」
徳久衛(とくひさ・まもる)さん(64)が言う。徳久さんはコンクールの実行委員会で副委員長を務めており、運営の中心になってきた人だ。故やなせたかしさん(1919~2013年)とは南国市で最も親しくしていた。
「あの人が泣くのか」と徳久さんが驚いたのは、平山耕三・南国市長(62)だ。市長は「読んでいるうちにホロリとしてしまった」と話していたという。
コンクールの最終審査は、実行委員会のメンバーをはじめとして、市長、副市長、教育長、協賛企業の代表ら、約30人が集まって行う。このうち、最高賞の大賞は市長が選ぶ。約50通に絞り込まれた中から「これだ」というハガキを最初により抜くのだ。
そうした市長の涙だから、余計に目をひいた。
コンクールの事務局が置かれている南国市観光協会の安岡知子・事務局長(41)は「市長が感動系の話を選ぶ傾向があるので、近年の大賞は読んでグッときたり、ウルウルしたりする内容が多くなりました。2023年度の第20回の大賞もそうでした」と話す。
<天国のばあちゃんへ
五十一年前の中学校の体育祭。両親のいない私を育ててくれた祖母。思春期とはいえ「見に来ないで」と言ったのに昼の弁当前、重箱にいっぱいの弁当を作って同級生の女子生徒に尋ねながら私を捜して届けてくれた。その祖母に、いやな顔で追い払うようにして帰らせた。「もう行かんよ」と寂しそうに言った祖母はその年の冬に倒れ、体育祭に来て欲しいと思っても来られなくなった。
ばあちゃん 本当にごめんなさい。>(第20回大賞)
大阪府の男性から届いた。51年前に中学生だったというから、年齢は60代半ばだろう。
市長は同年代だから、痛いほど気持ちが分かったのかもしれない。