父の最後の言葉は「夢は口に出せば叶うからね」
「お父さんお父さん、私来たよ、ちゃんと来てるからね、私ここにいるよ」
ずっとそう声をかけ続けたら、5分くらいでようやくすっと落ち着いて、穏やかに眠るようになった。
そして目が覚めると、今度はちゃんと話せる状態で、私の将来の夢の話とか学校の話とかをずっと二人きりで1時間くらい喋った。
病室のテレビではバラエティ番組が流れていたままだったけど、話の途中でテレビカードの残り時間がなくなり、ぷつんと切れて、静かな画面になった。
そうしたらお父さんが急に真面目な話を始めた。私はそれが嫌だったので、「なんか死ぬ前みたいじゃん」って茶化してしまった。お父さんがいなくなるなんて、絶対に受け入れたくなかったから。
おまえは絶対にいい大人になる。父ちゃんがこの子がいちばんだって思うくらい人として魅力があるから、これから押しつぶされそうになっても、誰に何を言われても、胸を張りなさい。
おまえは父ちゃんに似て繊細なところもあるから、すぐ自信をなくしたり、すぐ弱音を言いそうになったり、すぐ人に流されるところもある。
でもおまえがそういう人間でいてくれるおかげで、父ちゃんは死んでもこの世にい続けられるんだなって思える。元気でいてくれるだけで、ずっと生き続けられるんだ。
お父さんはそう言った。
でも私はやっぱり、そんな最後みたいな言葉を聞きたくなかった。
「そんなしみったれたこと言わなくていいよ。それより来月、一緒にディズニー行こうって言ってたじゃん。夏が来たら江ノ島にも行くんだから、頑張らなくちゃ」
泣きそうだったけど、涙は必死に堪えた。「頑張って」とだけ何度も言った。
自分のいちばん大切にしたい夢を叶えてね。
お父さんはずっとおまえの夢をサポートし続けるから、つらくなったり困ったことがあったら、とりあえず父ちゃんの顔を思い浮かべてくれ。そうしたらいつまでも一緒だし、いつまでも絶対に力を貸すから。
夢は口に出せば叶うからね。
それがお父さんの最後の言葉だった。
心電図の動きが止まったとき、思いきり泣いた
それまでずっとお父さんの手を握っていたけれど、泣いてしまうから目を合わせることはできずにいた。でもお父さんは、私が笑ってる顔が好きだっていつも言ってくれたから、もうお父さんがだめかもしれないとなったとき、笑っていようと思って振り絞るように笑顔を作って話していた。
でも、ついに心電図の動きが止まったとき、お父さんもう見てないよね、もういいよねって、思いきり泣いた。
お父さん、ちゃんと笑って私、お別れできたよね。
お母さんやお兄ちゃんたちが病室にやってきても、私はずっとお父さんの手を握ったままだった。
お父さんも最後にぎゅっと握り返してくれたその手を離すのが、嫌で嫌で本当に嫌で、だってこの手を離してしまったら、お父さんの手が冷たくなっちゃう。それがすごく怖い。
窓の外はすごい雨で、病室の時計はずっと夜の6時くらいで止まったままのような気がした。