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ある少年が告げた覚悟

 その後、特技披露の時間が設けられた。サンチェさんを中心に輪になり、手を挙げて指名された者が輪の中心で特技を披露する。内容を知っていたのか、一輪車をスタジオ内に持ち込んでいた少年もいた。皆元気よく手を挙げ、バク転のようなアクロバティックな特技を披露している。ここでアピールをしなければ……焦った僕は、気づくと手を挙げていた。

 その勢いがよかったのか、サンチェさんは僕を見て「君!」とチャンスをくれた。しかし、だ。僕には特技と呼べるような特技がない。何かないだろうか……とっさに思い浮かんできたのは、小学校のとき、CHARAのモノマネをしたら教室が爆笑の渦に巻き込まれたという小さな成功体験だった。

「何ができるの?」サンチェさんはこっちを見据えている。

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「も、モノマネ……」

 僕が声を絞り出すと、「モノマネはあとでやって、はい次!」と言われ飛ばされてしまった。

 ま、マズい……。違う種類の焦りが自分の中に生まれる。小学生に囲まれているからといって、なぜ僕は小学生の頃にウケたものにすがってしまったのだろう……。たしかに、この広い空間ですべき特技ではなかったのかもしれない。あえなく拒否された18歳の僕を見て、横にいた9歳くらいの少年がほくそ笑んでいた。

 合間に、休憩時間のようなものがあり、僕は何人かの参加者と話していた。年下にタメ語を使われ続ける時間だったが、それはしょうがない。会話は「親が応募したから今日来たんだよ」とか「◯◯くんに憧れている」とかそんな他愛のないものだったが、その中で中学2年生くらいの少年が急にこう言った。

「やられる勇気ある? 俺はあるよ」

 一瞬、何のことを言っているか理解できなかった。すると少年は、ものわかりの悪い奴だなあとでも言いたげな顔をして、こう付け加えた。

「ジャニーさんにだよ」

 僕は慌てて周囲を見渡し、大人の関係者が近くにいないことに安堵した。

 しかし僕はすぐにはこの質問に答えられず、さらにはここでその話題を彼と続けることは危険だと判断し、その場を離れてしまった。困惑する僕に、なんだか少年は勝ち誇ったかのような顔をしていた。

 この時点ではまだ都市伝説のような扱いだった話を少年は受け止め、覚悟した上でここに来ている。一方、僕はそんな具体的な想像をせずに会場に来てしまった。たしかに、覚悟の上で既に負けているような気がしてしまった。

 僕の「ジャニーズJr.になりたい」は、辛い道を進む覚悟のない、見たい部分だけをかき集めて想像した絵空事のように思えてしまって、より心が沈んでしまった。