生徒との関わり合いの中で成長していく藤竹の姿を
吉川 毎回、澤井さんは脚本打ち合わせの際に、原作小説も持参されていたんですけれど、ものすごい数の付箋が貼ってあって、めちゃくちゃ読み込んだ上で脚本を書かれているんだと思っていました。ドラマで追加したシーンも確かにあるけど、原作の中にその要素はちゃんと存在していたので、原作の読後感と同じものを脚本からも受け取ることができたのかなと思います。
演出をする上でいちばん原作と異なったところは、藤竹という教師の描き方だと思います。原作でも非常に魅力的なキャラクターですけれど、実際にそれを生身の役者さんを通して表現する上で、何かもう少し手がかりが欲しかった。第9話(「恐竜少年の仮説」)で、藤竹はある重大な告白をします。その動機に説得力を持たせるためにも、どのように深掘りしたらいいかは、澤井さんともずいぶん話した部分です。
伊与原 ドラマでは藤竹が定時制高校に赴任してきた新任教師という設定で、彼の成長物語にもしたいと聞かされたときは、「それもいいかもしれない」というより、「それも最高!」って(笑)。僕の小説の中では、藤竹は割と完成されていて、達観したところがある先生なんですが、生徒との関わり合いの中で成長していくほうが、絶対に面白いと感心しました。
吉川 これがなかなか難しいところでもあって、これまでの学園ものにあった教師像と違い、先生が何かを解決してくれるというより、寄り添うような存在かつ、最初は何を考えているのか読み取りづらく、ミステリアスにもしたいと考えていたんです。そうは言っても、藤竹の中には何かが必ずあるはずで、だんだん話が進むにつれて人間味も帯びてきます。そのバランスが非常に難しく、最初の数話は手探りでした。
澤井 伊与原さんがおっしゃったように、原作で読んだときの完成されたキャラクターとしての藤竹先生もいいのですが、窪田さんが演じることで、生身の人間の弱さや繊細な部分がぐっと引き出されていると思います。そこがまた素敵なところで、藤竹の魅力がより増したのではないかと思います。
伊与原 ほかの生徒さんのキャラクターが分かりやすいというか、はっきりしている分、余計に難しいところをさすがですよね。