そんななか、第1の突破口となったのが、同じく朝ドラヒロイン出身の芳根京子とW主演をつとめた映画『累ーかさねー』(2018年)ではなかろうか。
この作品で土屋は、容姿に恵まれたものの鳴かず飛ばずの舞台女優・ニナを演じた。天才的な演技力を持ちながら醜い容姿と顔の傷のために表舞台には立てない累を芳根が演じ、2人はキスをすると12時間だけ中身が入れ替わるという設定。
土屋も芳根も、何度も入れ替わる2つの人格を演じ分けねばならず、かなりの難役だ。加えて人間のエゴ、嫉妬、欲望をむき出しにする芝居が要求され、土屋はこの役で「一皮目」が剥けたのではないかと想像する。身体はニナ・中身は累の状態で、業をすべて抱き込んだ、土屋によるラストシーンのダンスは圧巻だった。
監督・脚本・主演を兼ねた作品では自分で自分に「当て書き」
『累ーかさねー』以降、シリアスな役やクールなキャラクターを演じることも増えてきた。『砂の器』(2019年/フジテレビ)で演じた、中島健人演じる天才音楽家の愛人。『哀愁しんでれら』(2021年)では、不幸のどん底に落ちた挙句に凶悪事件を起こす公務員を演じた。
主演した『今際の国のアリス(2020年・2022年/Netflix)では、『るろうに剣心』以来の激しいアクションに挑み、『大怪獣のあとしまつ』(2022年)ではクレバーな環境大臣秘書。しだいに役の幅を広げていった。
俳優がメガホンを握る短編ドラマ『アクターズ・ショート・フィルム』(シリーズ第3弾/2023年/WOWOWプライム)も大きな経験だったのではないだろうか。土屋は「Prelude~プレリュード~」という作品で監督・脚本・主演をつとめた。
自分で自分に「当て書き」をした主人公・歩架の、体育大学でダンスを専攻する女子大生という設定は、土屋の経歴ともリンクする。歩架は、バレエの道に進んでほしいと望んだ母親との確執に悩み、自分だけのダンスを見つけようともがく。有村架純演じる親友が歩架に言った台詞が印象的だった。
「歩架のダンスには、悲しさがあるんだよ」
「限界を知ってるっていうか」
決して天才肌ではなく、ひたすら愚直に努力を重ねて役をものにするタイプ。そして実は、明るさよりも悲しさを表現する役のほうが得意である。土屋が俳優としての自己を分析した台詞のように聞こえなくもない。