「土屋太鳳、いつからこんなに演技が巧くなった?」
日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)で彼女が演じる百合子を見ていると、毎回「芯を食った芝居」にハッとさせられる。おそらく同じような感想を持つ視聴者は多いのではないだろうか。
本作は現代の東京と、高度経済成長期に日本屈指の炭鉱地であった長崎県・端島を舞台に描く、愛と青春と友情、そして壮大なファミリー・ヒストリー。土屋太鳳は、1955年から物語が始まる「端島編」で島の経済を担う鷹羽鉱業の職員の娘・百合子を演じている。
序盤では、食堂の看板娘である朝子(杉咲花)を何かと目の敵にしている、お高くとまった「お嬢さん」だった百合子。しかし物語が進むにつれて、百合子のバックストーリーが徐々に明らかになってくる。
1945年8月9日、彼女が小学生のときに長崎で母(山本未來)、姉(竹井梨乃)とともに被爆したこと。心身のバランスを崩して長らく寝たきりだった母の呪縛。百合子は被爆者ゆえに子どもを望めない、誰とも結婚できないと思い続けてきたこと。そしてあの日、朝子の無邪気な「いたずら」がなければ被爆せずに済んだということ。
『海に眠るダイヤモンド』の人物は、気持ちをそのまま台詞で言うことが少ない
こうした複雑な背景を抱え、こじらせた百合子を、土屋が見事に表現している。特に目を見張ったのが、第4話で母の死後、幼馴染(清水尋也)から渡されたペンダントを百合子が頬に当てて慟哭するシーンだ。呪縛からの解放と、翻って自分の居場所を見つけた安堵のような、怒りと哀惜と愛と、いろんな表情が入り混じった百合子のこのシーンは、本作のなかでも指折りの名シーンと言える。
『海に眠るダイヤモンド』の人物は、気持ちをそのまま台詞で言うことが少ない。その代わりに人物の行動、表情、しぐさで語る。主要人物を演じる俳優全員にこうした難しい演技が要求されていて、百合子の複雑な内面を表現するのは特に難易度が高いのではないだろうか。しかし土屋はその重責に存分に応えている。
1995年2月生まれの、現在29歳。土屋太鳳は、いつからこんな技巧派の俳優になったのだろうか。彼女のターニングポイントになったと思われる作品をたどりながら、その理由に迫ってみたい。
2008年公開の映画『トウキョウソナタ』にて12歳(撮影時)でスクリーンデビューした土屋。最初に注目を浴びたのは16歳のとき、同名人気漫画をドラマ化した『鈴木先生』(2011年/テレビ東京系)で演じた小川蘇美役。
ミステリアスな美少女でカリスマ性があり、長谷川博己演じる主人公に大きな影響を与える。当時の番組公式サイトに出演者の紹介とともに直筆のアンケートが公開されていたが、土屋の回答だけ突出してびっしりと書かれていたことが記憶に残る。真面目で努力家、どんなことにも全力投球という性質はあの頃から変わっていない。