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何度目かのトンネルを抜け集落に。ここは“冬眠”するらしい

 旧赤岩駅跡を通り過ぎてトンネルをくぐり、峻険な山の形に合わせて線路が右へ左へと曲がりながら、坂道を上っていく。運転台の真後ろから正面を見ていると、平坦な区間がほとんどなく、ひたすら上り坂が続いているのがよくわかる。

板谷駅付近の線路近くにある36パーミルの勾配標
スノーシェッドの中にある板谷駅に接近

 7時40分に何度目かのトンネルを出たところで、久しぶりに人家が散在する集落が現れた。まもなく本線の右側から引込線が合流したところで、巨大なスノーシェッドに覆われた板谷駅に停車する。

 引込線の先には、スイッチバック時代のホームや駅舎が残っている。小さな無人駅には似つかわしくない立派なスノーシェッドは、スイッチバック時代に線路のポイント等を雪から守るために設けられたものだ。

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板谷駅のスイッチバック用ホームに停車する普通列車(平成2年)
ほぼ同じ位置から撮影。左側の線路上の倉庫はスイッチバック廃止後に建てられたもの

 ちょうど、反対方向からも福島行き普通列車がやってきた。どちらのホームにも、列車を待つ人、下車する人の姿はない。

 板谷駅がある米沢市大字板谷には令和2(2020)年の国勢調査の時点で33世帯62人が住んでいることになっているが、冬季の駅利用者が少ないため、令和5(2023)年1月から積雪シーズンは全列車が通過するようになった。今シーズンも、大沢駅の無期休業と同時に来年3月まで“冬眠”することが発表されている。

スイッチバック時代の板谷駅舎(平成2年)。後方のホームに赤い客車列車が停車している
ほぼ同じ位置から撮影。駅舎としての機能を終えて封鎖されている

 積雪量が多い山間部では、かつては除雪が行き届かない道路を走る自動車よりも、通年運行される鉄道の方が冬の交通機関としての信頼度が高いとされていた。それが、肝心の積雪期に駅が休止されてしまうのだから、雪が無いシーズンでも地元住民の利用はほとんどないのだろうと察せられる。

スノーシェッド内の板谷駅全景
「だ~れも、いません」(板谷駅待合室に設置されているノートより)

「熊・出没!」「この区間を歩いて行くのは危険です」

 板谷を出た列車は、その先で長いトンネルを続けて2つ通過する。2つめの第二板谷峠トンネルの中で板谷峠の最高地点に達し、そこから先は下り坂を駆け下るように走るのが、車内にいてもよくわかる。

山形新幹線が峠駅を通過

 その第二板谷峠トンネルを出たところにまたスノーシェッドがあり、7時45分、峠駅に到着。「峠」という普通名詞が駅名になってしまったのは、もともと人が住んでいない山奥に蒸気機関車が石炭と水を補給する目的で設けられた駅だったため、固有の地名がなかったからだと言われている。ここも板谷と同じく、スイッチバック解消後は古びたスノーシェッドの中にホームが設けられている。

戦前の絵はがきに見られる峠駅構内の全景(右上の写真。筆者所蔵)
絵はがきとほぼ同じ方向から撮影。手前にあった下りホームは草叢の中に眠っている
スイッチバック時代の峠駅下り(米沢方面行き)ホーム(平成2年)

 そういう場所なので、板谷、大沢の両隣駅に比べて、峠駅周辺はいっそう住民が少ない。板谷からは起伏の激しい旧道で板谷峠の頂上を越えて峠駅へアクセスできるが、大沢方面へ自動車で行くにはその板谷峠の道を戻って、板谷からの道路に合流しなければならない。