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 旧ホームの終端部では、改軌前の狭い幅の線路が錆び付いたまま地表に顔を出している。赤岩、板谷、峠の3駅に比べると、この大沢駅は34年前のスイッチバック廃止時の姿を比較的よくとどめていて、旅行者も観察しやすいように思う。

上りホームにあったスイッチバック時代の大沢駅舎(平成2年)。「鉄道マニアの皆様へ」というJR東日本による貼り紙が見える
旧上りホーム跡に残る大沢駅舎
旧駅舎の壁面にうっすらと残る「大沢駅」の文字

次の春、このあたりは…

 その大沢駅が通年営業休止になり、板谷駅も冬季休業となると、積雪期に普通列車が停車する板谷峠の途中駅は、駅周辺の人家が最も少ない峠駅だけになる。

 山形新幹線が走る限り、路線そのものがなくなることはないだろうが、幹線の中間駅がこうして少しずつ旅客営業を縮小していくと、やがて福島駅周辺と米沢駅周辺を除いて沿線に鉄道利用者がいなくなり、地域密着型の普通列車がさらに減便されるというサイクルに陥りかねない。

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スイッチバック式の大沢駅に到着した山形方面行き下り列車(平成2年)
ほぼ同じ位置から撮影。向かいの上りホームは駅舎をはじめ当時の面影が今も良く残っている

 用もないのに普通列車で旅行しようと思い立つ青春18きっぷユーザーにとっても、便利な特急列車や自家用車が使えない多少の不便さは承知しているものの、秘境になりすぎて列車での訪問自体が難しくなってしまうのでは、旅先の選択肢から外さざるを得なくなる。

「有効期間は連続5日(または3日)のみ」という今回の青春18きっぷのルール改定が、普通列車で板谷峠を訪れる旅行者にどんな影響を及ぼすのかは、板谷駅が営業を再開する来年の雪融けシーズン以降にならないとわかりにくいかもしれない。

スノーシェッド内の大沢駅
大沢駅待合室に置かれていた訪問者用の駅ノート。表紙に「最後までガンバロー」と書かれていた

 ただ、そのときにはもう、大沢駅を列車で訪れることはできない。大沢駅の旧スイッチバック遺構は、板谷・峠の両駅に残る遺構とともに、平成20(2008)年度に経済産業省から近代化産業遺産群の一つに認定されているのだが、いずれは旧赤岩駅のように近寄ることさえ困難な山峡の廃墟と化してしまうのだろうか。

写真=小牟田哲彦