プロットを立てると楽だと気がついた
――そうした、いろんなことが重なり合っていって、クライマックスは胸熱でした。
朝倉さんはもともとプロットをかっちり決めて書くタイプではなかったと思いますが、今回は事前に結構プロットを組み立てたんですか。
朝倉 驚くなかれ。今回は自分でもびっくりするくらい、しっかりとプロットを考えました。あくまでも当社比ですけれど。
というのも、それをやっておけば楽だって気づいたんですよね。以前は、ストーリーを進めながら描写に気を配ったりと、同時にいろんなことをやらなきゃいけなくて大変でした。でも『平場の月』で箇条書き程度のプロットを作った時に、うっすら気づいたんです。何を書くか決めておけば、文章表現だけに集中できるんですよね。
――山本周五郎賞を受賞した『平場の月』は、中年の元同級生同士の男女が再会して飲み仲間となるけれど、女性のほうが実はがんで……という。病気の進行状況があるから、話の流れを決めておかないといけない内容でしたよね。
朝倉 そう。事前に決めておけば、こんなに楽なんだなと分かって、今は長篇を書くとき、プロットに夢中ですね(笑)。
以前は、だいたいこういう流れになるのかな、というぼんやりとしたイメージで書き始めて、いろいろ考えながら書いて、書き終えた時には「なんとかなった!」って思っていました。でも、そんなんじゃ駄目だと思ったんですよね。年を取って体力が落ちてきたということもあるかもしれない。そんなにいっぺんに沢山考えられなくなってきたので。
――プロットを作らなかった時と作るようになってからでは、出来上がったものが違うと感じますか。
朝倉 感じますね。プロットを作らなかった頃は、こんなに要素をいっぱい入れられませんでした。自分で混乱しちゃうから。
私の非常におめでたいところなんだけれども、プロットを作る時、自分が書き切れるかどうかは考えずに要素を入れ込んでいるんです。だから、この先プロット作りに慣れてくると駄目かもしれない。「これは私にはできなそうだな」と思ったら、プロットにも手心を加えてしまいそうだから。今はまだ、「できるか分からないけれど、こういう話、面白くない?」と思いながら作っています。
――最近は五十代の男女を描いた『平場の月』、八十代のおもちさんが主人公の『にぎやかな落日』、そして今回の『よむよむかたる』と、主人公たちの年齢が上がっているのは偶然ですか。
朝倉 最近は高齢者が出てくる話や、時代小説のほうがしっくりきます。それは、自分が今使われている日本語の“ネイティブじゃない”感じがしているから。今の若い作家の小説を読むと、「本当にこんな言葉を使っているの?」って思うの。「本当に“バリュー”とか“ソーシャルグッドな”とか言うの?」って。そういう言葉を使うのは東京の人だけなのか、北海道でも使っているのか、そういうことも分からない。(二十代の編集者Kに向かって)会議で「ソーシャルグッドな」(社会貢献的な、の意)とか言っています?
編集者K うちの会社では言わないです。
朝倉 「しごでき」(仕事ができる人、の意)は普通に使ってる?
編集者K それは使います(笑)。
朝倉 そういうのが分からないの。
――さきほど、時代小説がしっくりくるとおっしゃっていましたが。
朝倉 今、「小説宝石」で「けんぐゎい」という時代小説を書いているんです。違う時代を舞台にしたほうが自分が暴れられるような気がして。
江戸時代の、ダークファンタジーといえばいいのかな? 違うかもしれない(笑)。