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「水道の水の音につられて出ちゃったんですね。大丈夫、よくあることですよ」

雨水の音がきっかけで漏らすことも…

 水が流れる音に反応して尿が漏れることがあるとは知らなかった。しかしこの数日後、僕は再び尿失禁を経験する。仕事で出かけて、地下鉄の駅のホームに立っていた時のことだ。雨水だか湧水だかが線路際の側溝に向けてちょろちょろと音を立てて流れ落ちる音を聞くともなしに聞いていた時、退院の日ほど大量ではなかったものの、失禁してしまったのだ。この時も尿漏れパッドで救われたが、こうした経験から僕は術後半年間、昼間は尿漏れパッド、就寝時は紙おむつを手放せなくなってしまった。

ステージ4のがんになった筆者こと長田氏 ©文藝春秋

 半年ほどで「下着だけ」の生活に戻ったが、いまも出張や旅行で外泊する時は、万一に備えて紙おむつを持参し、就寝時だけ使用している(退院直後に大量購入してしまったので)。それほど、大人になってからの尿失禁がもたらす精神的なショックは大きいのだ。

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 退院した日は天気がよかった。

 正午ごろに四谷の自宅に帰ると、東京パラリンピックの開会を寿ぎ、航空自衛隊のブルーインパルスによる祝典飛行があるという。ちょうどわが家の上空を飛ぶというので、ベランダに出て空を見上げていた。

 これが僕にとって最後のオリパラになるのかもしれないな──と思って見上げていた。