「水商売と似ているなと」

――いっぽうで、お寺にも言えることですが、維持費を含めかなり費用がかかりそうです。

村山 その通りで、宮司になるにあたって装束なども数着あつらえたので、相当費用がかかりました。ですから、どんどん着ないと勿体ないのです(笑)。着物は正絹以外考えられないのですが、当初は、装束を正絹で作ることに躊躇していたのですね。というのは、宮司就任の記念品、東京と奈良の往復の交通費等々、当分の経費を確保しておかないといけない。ですので正絹ではなくポリエステルのような素材で作ろうと……それだって何十万円もする高価なものなのです。ところが、ある時挨拶回りの最中にポリエステルの装束の話となり、「これは宮司の立場としては、例大祭だけでも正絹でないと、影で言われるな」と思い、清水の舞台から飛び降りたつもりで正絹で仕立てることにしました。最終的には、この正絹の装束は、北新地時代からの40年来の御贔屓のお客様が、宮司就任祝いとして御奉納してくれたので本当に助かり感謝です。でも、ふと思ったのですが、着物にはかなり投資していたのに、どうしてここでせこい考えをしてしまったのか、あの場で装束の話が出たお陰で、きちんと準備出来て良かったと思いました。(笑)

©原田達夫/文藝春秋

「お仕えするのがお客様から神様に変わった」

――話を聞いていて思ったのですが、ママとしてのキャリアが間違いなく生きそうです(笑)。

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村山 私もそう思っているのです。不思議な感覚で、宮司就任式は初めて自分のお店を北新地にオープンした29歳のときに覚えた緊張感や華やかさ、覚悟、そうした雰囲気とそっくりでした。少しでも多くの方に、駒形大重神社を知ってもらえる一つとして、普通の神社ではあまりないと思うのですが、胡蝶蘭を用意したのですね。当初は、神社の役員さん達の分くらいはと思って14鉢お願いしたのですが、仲の良い東京の生花店さんが、わざわざご夫婦でトラックに乗って届けてくれると言うのです。そこまでしてくれるのに14鉢では申し訳ないと思って、「何鉢積めるのですか」と聞いたら、「40鉢ぐらいは」と。氏子さんが故郷蘭用のテントを準備してくれて、他の花屋さんからもお花が届いたので、沢山の胡蝶蘭に囲まれて就任式を行いました(笑)。あまり派手にし過ぎてもとは思うのですが、ママのときの癖が出てしまう。でも、それは私の人生でもある。ですから、私は宮司になって、「お仕えするのがお客様から神様に変わった」と思う時もあるのです。私の役割は、1000年以上続いてきた神社を、次の1000年先にも残すために、その覚悟と思いを持って宮司としてご奉仕すること。次代に引き継いでくれる神職も育てないといけませんし、私にどこまで出来るかわかりませんが、そのつもりでお仕えしていきます。

©原田達夫/文藝春秋

――なるほど……めちゃくちゃ素敵な考え方です。

村山 実際、共通する部分が少なくないのです。神様に喜んで頂きたい、参拝者が増えればきっと神様も喜んでくれる。駒形大重神社に関わってくれる方々も楽しめる様な場所にしたいし、訪れた人にとっても清々しい神社だなって思ってもらえる様にしたい。私が宮司に就任した時、母から「やっと陽子ちゃんが、一番好きな仕事を見つけたのね、今までの経験が全て生かされる、地域の方々と協力し合って、このまま続けてくれた良いのになあ」と言われました。母がそんな風に思ってくれていた事が、ちょっと意外でした。