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――社会に復帰したいという気持ちは。

糸井 そんなチャンス、自分にはないと思っていました。その当時から、「就職氷河期」とか「派遣切り」といった言葉をニュースで見聞きしていて。高卒や大卒の人でも就職活動で落とされたり、クビになったりしているのに、学歴も職歴もなく、容姿への劣等感も抱いていた自分が社会に出られるわけがないと。

 ただ、もし社会に出たら周りについていけるように、勉強だけはしておこうと思って。英和辞書を丸写ししたり、NHK教育テレビで放送されている『NHK高校講座』を見てノートに書き写したりしていました。

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精神科の閉鎖病棟に強制措置入院することになった“きっかけ”

――社会復帰を諦めきれなかったわけですね。

糸井 そうです。それに、このまま死んだら、私の存在がなかったことにされるんじゃないか、私が幼い頃から感じていた痛みも苦しみもなかったことにされるんじゃないか、と思うようにもなったんです。もし死ぬとしても、それだけは嫌だった。

 その思いがピークに達したときに、紙テープで血染めの歯形を作って、それをA4の便箋に貼って弁護士事務所と医療機関の2か所に送ったんです。

――血染めの歯形?

糸井 自分の歯形です。上歯と下歯の本数を調べて、歯が欠けている部分もわかるように紙テープの裏側に描いて。それを自分の血で染めたんです。一緒に血で染めた1万円札も同封して送りました。

――なぜそのような行動を起こしたのでしょう。

糸井 自分が生きた証を残したかった。だから「助けてください」というメッセージも書きませんでした。助かるとも思っていなかったし、血染めの歯形を送って、そのあとは死ぬんだろうと思っていました。

 でも、それがきっかけで医療関係者が私の家に訪ねて、精神科の閉鎖病棟に強制措置入院することになったんです。引きこもってから17年が経過した、31歳のときでした。

撮影=山元茂樹/文藝春秋

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