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 だが将棋は難しい。今までの王道の序盤戦は途中まで定跡なのだから見慣れた形で進むが、今度は早々に力勝負に持ち込むので乱戦模様になる。さほど経験がない形で最善手を連発するのは不世出の天才棋士でも簡単ではない。序盤でうまくいっても、レアな形で終盤戦に突入するので苦戦することが増えたと思われる。

藤井聡太 ©文藝春秋

更に凄味を増した藤井の姿

 しかし、’24年夏を過ぎたあたりで藤井もようやく新しい手法に慣れたようだ。3連勝で防衛した王座戦の一夜明け会見で藤井は「振り返ると、今までと違う戦型を指してみようというところがあって。結果としては思わしくないこともあったが、内容としてはいい経験が積めた」と語っている。試行錯誤の代償で八冠が崩れたが、この先は更に凄味を増した藤井の姿が見られるだろう。頂点を極めても成長を見据えて前進する22歳、恐るべし。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』に掲載されています。