なぜ「津軽海峡・冬景色」「天城越え」の2曲?
ただ、石川さゆりの「2曲ルーティン」という選曲はNHK側からの要望で、ご本人的には複雑なのだそうだ。確かに2曲以外のヒット曲も多く、新曲も積極的に出していることを考えれば、そちらを歌いたい思いもあるだろう。2021年、KREVAとMIYAVIとのコラボレーション「火事と喧嘩は江戸の華」は最高にエキサイティングだったにもかかわらず非常に短く、「津軽海峡・冬景色」に切り替わってしまったため、もっと長い尺で聞きたかったという声も非常に多かった。
2023年にリリースされた新曲「ダメ男数え唄」も、大泉洋をはじめとした盛り上げ上手の白組歌手が応援に入る演出をすれば、おおいに盛り上がった気がするので、非常にもったいない。私自身「津軽海峡・冬景色」「天城越え」を聴かねば年を越せない体になっているのは確かだが、バリエーション豊かに歌う彼女も観たいというせめぎあい。なんとももどかしい。
そしてついに今年、2曲のルーティンを崩し、震災に苦しんだ能登に向けて、1977年の名曲「能登半島」を歌う。力強い応援になるはずだ。
歌う除夜の鐘。そんなレベルで、石川さゆりの歌はある。
同じ曲をアップデートし、素晴らしいパフォーマンスに!
流行歌の定義が大きく変わる昨今。サブスクリプションが一気に普及したことで、歌に「時間、時代」の概念が薄まりつつある。プレイリストに浮かんでくる懐メロは、若者にとっては、もう懐メロではなく、新曲のように愛される時代なのだ。
そういった意味で「昭和から色あせず愛される、素晴らしい歌とパフォーマンスを、年を越す際にその良さを改めて知り、次の時代に語り継ぐ」――。それもまた、紅白歌合戦の大きな見どころになる。今回の、イルカ、南こうせつ、THE ALFEEの出演は、その岐路にふさわしい。今回なぜか名前が見えない鈴木雅之や、2009年に「後進に枠を譲りたい」と紅白を勇退した布施明も、もう一度、返り咲いてほしい。
もちろん、若手、中堅とのバランスを考えるのは大前提だが、同じ曲でも、毎回常に素晴らしいパフォーマンスを見せてもらえるという安心感と信頼があれば、それは、なくてはならない楽しみと化す。
郷ひろみと石川さゆりのエネルギッシュなステージが、今年も楽しみだ。