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橋本 では、蔦重さんや山東京伝さんはどうして捕まってしまったんでしょうか?

鈴木 おそらく町役人レベルの判断で、いちばん目立ってる人間を見せしめに捕まえて、街の空気をピリッとさせようってことだったんだと思います。本来、松平定信がやろうとしていたのは、ダメダメな幕臣の再教育なんですね。田沼意次が実権を持っていた時期に、武士が遊び回るようになって、ポンコツだらけになってしまった。これを何とかしようとしていたんです。そんな引き締めの雰囲気に合わせて、町役人が動いたってことなんでしょう。

橋本 田沼さんの時代は、色々と緩かった、ということなんですね。

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鈴木 江戸の町人たちとしても、武士が持つ教養に憧れていたから、彼らが遊びに来てくれることはウェルカムだったわけです。「先生、先生」とチヤホヤして、武士たちもいい気になって遊んでいた。洒落本や黄表紙の作者には、そういう遊び人の武士たちも多かったんですね。

最後まで時代の先端を走り続けた

橋本 蔦重さんは、どんな処分を受けたんですか?

鈴木 財産を半分没収されました。でも、残っている史料を見る限り、へいちゃらだったようですね。引き続き山東京伝に黄表紙を書かせています。特に、地方のマーケットを意識して、非常にわかりやすい、教訓的な黄表紙を作っていく。江戸以外への流通を視野に入れていたわけですが、こんな発想を持つ版元は他になかった。やっぱり彼はいつも時代の先を行くんですよ。

橋本 普通、そういった処罰を受ければダメージを引きずりますよね。なかなかできることではないと思います。ただ、残念ながら、48歳で亡くなってしまう。

英語版タイトルは「解放された」「とらわれない」という意味をもつ『UNBOUND』に(NHK『べらぼう』公式Xより)

鈴木 死因は脚気(かっけ)です。要するにビタミン不足。

橋本 そうか、ビタミン大事ですね。あと、ものすごく忙しかったのもあるんじゃないでしょうか。

鈴木 死ぬ間際までバタバタやってましたからね。

橋本 現代でも、仕事に重きを置きすぎると、食事や睡眠をおろそかにしがちなので。

鈴木 奥さんから叱ってやってください(笑)。

橋本 はい(笑)。蔦重さんの死後、お店はどうなったんですか?

鈴木 番頭が引き継いだんですけど、冴えなくなりました。奥さんがまだいたとしたら、苦労したと思います。それにしても、私の話って、橋本さんの演技には余計な情報じゃないですかね。かえって足を引っ張るんじゃないかって。

「きちんと史実を学んだ上で臨みたい」

橋本 いえ、私はきちんと史実を学んだ上で臨みたいと思っています。たとえフィクションであっても、実際にこの世界を生きていた人を演じる重みというのがあるんです。ご本人に最大限の敬意を払いたいし、そのためにはできる限り勉強をしておきたいなって。

橋本愛さん ©橋本篤/文藝春秋

鈴木 いまのお話を聞いて、橋本さんの演技を観るのが心底楽しみになってきました。

橋本 「てい」という名前や、本屋の娘であることが創作であっても、その中でいかに最大限の敬意と責任を持って演じるか、自分なりに考えていきたいと思います。

鈴木 今後、蔦重の奥さんといえば、誰もが橋本さんの顔を思い浮かべるようになるでしょうね。

橋本 うわー、責任重大だ。頑張ります。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』に掲載されています。