高精細なデジタル映像と「勧善懲悪」から離れた異色のストーリー
前作の実写では、CGの完成度が「リアルすぎ」たために、酷評も聞かれた。いわく、ディズニー・アニメの真骨頂ともいえる表情がない、リアルすぎて怖いなど、映画評価サイトRotten Tomatoesのレビュースコアも、決して高いとはいえない評価だった。
『ライオン・キング』が伝える愛と生命の「サークル・オブ・ライフ」を観て、感動をわかちあいたい観客に反して、イギリスBBCや、ナショナルジオグラフィックのドキュメンタリー番組に負けじと(思ったかどうかは知らないけれど)リアルな描写や動きにこだわったがゆえの失敗といってもいいだろう。
しかし本作では、その前回の経験が見事に回収されている。技術の向上もあるには違いないが、「本物」のような毛並み、動き、質感を出しながら、アニメキャラクターのような温度と彩りのある表情、感情がビシビシと伝わってきて、「動物をみている」という違和感がない。
IMAXや4DXシアターで観たら、一層深い没入感が得られるはずで、一般庶民でもこんな映像が当たり前に見られる時代に生まれたことをありがたい、と感動すらしてしまった。
音楽も文句なしにいい。劇団四季の作品は、観終えた後、帰る途中につい劇中ナンバーを口ずさみたくなってしまう作品が多いが、本作も鑑賞後しばらく、ふとした瞬間に「サークル・オブ・ライフ」を歌いたくなるほど余韻が残る。
これぞディズニー! と言いたい本作だが、ストーリーは若干、これまでの「勧善懲悪」とは異なる。
近年は多様な人種や価値観の提示でポリコレへの配慮を推進していたディズニー。「やりすぎ」と言われることも多かったが、本作では人種や性的趣向ではなく、ムファサとタカ「ふたり」の生き方・考え方への多様性を提示したようにもみえた。ムファサ派、タカ派、それぞれの見方で議論を呼び起こしそうなところも狙いのひとつなのかもしれない。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(24年)『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02年)好きならはまるはずだ。
人も動物も、生まれた時から「悪人」なのではない。環境が変えるのだ。
〈ストーリー〉
『美女と野獣』『アラジン』を超えるディズニー映画全世界No.1ヒット作『ライオン・キング』。ディズニー史上最も温かく、切ない“兄弟の絆“の物語。息子シンバを命がけで守った父ムファサ王。孤児であった彼の運命を変えたのは、ムファサの命を奪った“ヴィラン”スカーとの幼き日の出会いだった。血のつながりを越えて兄弟の絆でむすばれた彼らは、冷酷な敵ライオンから群れを守るため、新天地を目指す旅に出るが…。「ずっと“兄弟”でいたかった」──ムファサを偉大な王にした兄弟の絆に隠された、驚くべき“秘密”とは? 心ゆさぶる楽曲にのせて、 『ライオン・キング』はじまりの物語を超実写版で描くキング・オブ・エンターテイメント!
INFORMATION
『ライオン・キング:ムファサ』
12月20日(金)全国劇場にて公開
原題:Mufasa: The Lion King
監督:バリー・ジェンキンス/字幕版声優:アーロン・ピエール、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ティファニー・ブーン、マッツ・ミケルセン、ドナルド・グローヴァー、ブルー・アイビー・カーター、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ジョン・カニ、セス・ローゲン、ビリー・アイクナー、プレストン・ナイマン、カギソ・レディガ/超実写プレミアム吹替版声優:尾上右近、松田元太(Travis Japan)、MARIA-E、吉原光夫、和音美桜、悠木碧、LiLiCo、渡辺謙 ほか/2024年/アメリカ/118分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン/©2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.