経団連の次期会長に日本生命保険の筒井義信会長(70)が金融・保険分野から初めて起用されることになった。製造業以外から選出されたのは東京電力出身の平岩外四氏以来2人目。十倉雅和会長が悩み抜いた末の決断だった。
2、3年前から一貫して「大本命」とされてきたのは日立製作所の東原敏昭会長だった。徳島大学工学部、米ボストン大でコンピューターを学び、日立をITシステムの雄に押し上げた立役者だ。「都会育ちと違う骨太な人柄。日立のような巨大企業をまとめ上げた実績は何物にも代えがたい」(会長経験者)とされた。
だが、東原氏自身はかなり早くから固辞する意向を十倉氏に示していた。経団連にとって次期会長人事は秘中の秘。現職の会長の相談相手は事務総長だけとするのが伝統だ。十倉氏は経団連事務総長の久保田政一副会長と悩み抜いた。
「経団連会長」という桁違いの負担
製造業以外から選びたいと考えた会長は十倉氏が初めてではない。前会長の中西宏明氏(元日立会長)、2代前の榊原定征氏(元東レ会長)もメガバンク、商社、不動産などから候補者を探ったことがある。
今年に入ってからは「十倉氏は中西氏が自分を選んでくれた恩返しとして、同じ日立の東原氏に白羽の矢を立てるに違いない」(財界担当記者)と、当事者が誰も思ったことがない妙な臆測が広がった。
住友化学は米倉弘昌氏、十倉氏と2人の経団連会長を出している。十倉氏はこの仕事が出身企業にどれだけ負担をかけるか、身に染みて知っている。「会長を支えるには通常の渉外部門だけでなく、政策を調査し立案するスタッフも必要。政治家から会社への陳情も桁違いに増える」(自動車メーカー幹部)というのが、財界の常識だ。
業績が低迷し、思い切ったリストラや損失処理でV字回復を狙っても、自分の会社のトップが経団連会長なら、「どうしても先輩のメンツという問題が頭をよぎる」(渉外担当者)というのが本音だ。
住友化学は不採算のプロジェクトの損失を片付けるため大きな赤字を出した。これは十倉氏が「私のことは一切気にするな」と経営陣の背中を押したからできたことだ。東原氏を選んだ時に日立にかかる負担の重さを、十倉氏が慮ったのは間違いない。
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この続きは「週刊文春電子版」で公開中。筒井会長の起用を決定づけたJR東日本会長の“助言”、東原氏の対抗馬と目されていた日本製鉄・橋本英二会長の名が消えた背景などを報じている。