愛にもいろいろあるじゃないですか。
響子 愛してるとか、そういう言葉、大嫌いだから、母は。
桃子 祖母も嫌いだし、母も嫌いなんです。私も嫌いだし。
響子 安っぽい言葉じゃないですか。愛してるって言ってしまうと、一言で終わる。
桃子 説明するのを放棄して、放り込む言葉だと思う。
響子 ブラックボックスだよね。
桃子 愛にもいろいろあるじゃないですか。例えば祖母と祖父は同人誌仲間だったから、仲間愛みたいな愛はあると思う。それを男女の愛みたいに言うのはキモい。
響子 母は父のことを、「あの人は優しい人なんだよ」と言っていて、そういう思いはあったのは確かだけど。
桃子 「優しい人」と「愛してる」は全然別で。祖母は、「好きな人を好意的に評価する」ということもしない人だと思うんです。作家として、自分の感情と評価は分けなくてはいけない。そういう線引きはできる。
響子 エジプトで母がコーヒー占いをしたら、占い師が「彼女は娘を愛してる」って言ったんです。母はそのことを『娘と私のアホ旅行』で、「そりゃ娘だもの、愛しておるよ!」って書いていました。そういう感じですよ、母の「愛してる」に対するニュアンスは。
桃子 大事に思う。好き。幸せになってほしい。それって全部違うと思うんです。
響子 少し前、母のお見舞いに行った人が、「響子さん、今度病院から帰る時、お母さんにハグしてあげてください」って言うんです。キモッ! てなりました。生まれてこの方、誰ともハグしたことのない者同士のハグですよ? 母にしてみれば「何だいったい!?」ってことになりますよ。
●佐藤愛子さんがM-1グランプリを見て面白いと評したお笑い芸人や座右の銘について、そして佐藤さんが娘と孫にした“謝罪”などインタビュー全文は『週刊文春WOMAN2025創刊6周年記念号』でお読みいただけまます。
娘・杉山響子
すぎやまきょうこ/1960年生まれ。玉川大学文学部卒。両親の離婚後は、母の佐藤愛子と暮らす。
孫・杉山桃子
すぎやまももこ/1991年生まれ。立教大学文学部卒。現在は「青乎(あを)」として、映像や音楽作家として活動。著書に『佐藤愛子の孫は今日も振り回される』。
さとうあいこ/1923年大阪府生まれ。甲南高等女学校卒業。1969年『戦いすんで日が暮れて』で第61回直木賞受賞、2000年、65歳から執筆を始めた佐藤家3代を描く『血脈』の完成により第48回菊池寛賞受賞。2017年旭日小綬章を受章。
聞き手・文 矢部万紀子
写真・時事通信フォト、文藝春秋

