少子化が進行した分岐点は2015年だった
韓国の人口学者たちが「少子化への分岐点になった年」とする2015年は、若年層に「スプーン階級論」が広がった時期と合致する。「スプーン階級論」とは、韓国は表向きには身分の差別がなく、本人の努力などによって階層間の移動が自由な社会だが、実際には生まれる時に口にくわえて出てくるスプーン(親の経済力)によって階級が決まる「新世襲社会」であるという主張だ。
その階層は、富裕層の「金のスプーン」から「銀のスプーン」「銅のスプーン」「土のスプーン」にまで分類される。土のスプーンをくわえて生まれた最下層の若者は、いくら努力しても越えられない階層間の障壁が存在することに気づき、絶望感に苛(さいな)まれる。
また、いまの韓国の若者たちは、「七放世代」と言われる。恋愛・結婚・出産・マイホーム・人間関係・夢・就職の7つを放棄せざるを得ない世代という意味だ。もし自分たち夫婦の息子もしくは娘が「七放世代」になるとすれば、子供を作りたいと思うだろうか?
絶望的な状況の中、5年の任期のちょうど折り返し地点を迎えた尹錫悦(ユンソンニヨル)政権は、「超少子化との総力戦」に乗り出している。2024年6月、尹大統領が自ら「人口国家非常事態宣言」を出し、人口政策を総括する「人口戦略企画部」の新設と、大統領直属の「少子化対応首席室」の発足を決めた。出生率のV字回復のため、「仕事と家庭の両立」「養育」「住居」という3つの核心分野を選定。60以上の具体的な対策を立てて、2025年だけで20兆ウォン(約2兆2000億円)を支援するという計画だ。
だが、それでも、私は楽観的な気持ちになれない。韓国の超少子化は、競争至上主義社会の構造的問題が複雑に絡み合っているためだ。
いずれにせよ、「今日の韓国は明日の日本」だ。日本は「少子化で先を行く」韓国をよく研究し、教訓とすべきだろう。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』に掲載されています。