データを取って統計を精査してみないと分からない本当のことが、たくさんあります。にもかかわらず、調査データを取る前に痩せたほうがいい、と指導するのが日本人です。これでメタボリックシンドロームなる用語の発案者が、どれだけ罪深いか分かるのではないでしょうか。
コレステロール値が高い人ほどガンになりにくい
和田さんは、コレステロールをめぐる「一面的」な通説にもメスを入れます。「コレステロール値が高いひとほどいわゆる心筋梗塞になりやすい」というデータがあることは確かだが、一方でハワイのある住民調査では、「コレステロール値の高い人ほどガンになりにくい」という結果が出ています。
コレステロールに関しても善玉悪玉とか呼んでいますが、それはあくまでも循環器内科的視点からの善玉悪玉にすぎません。いわゆる悪玉コレステロールは動脈硬化の原因で心疾患を引き起こすからです。
悪玉コレステロールはその一方で、免疫細胞の細胞膜の材料になったり、男性ホルモンの材料だったりもします。だから、悪玉コレステロール値が高い人ほど、かえってガンにかかりにくいとか、齢を取っても精力的で元気だという側面もあるのです。
「糖尿病の治療がアルツハイマーを促進する」
さらに和田さんは、高齢者医療の現場で気付いた「糖尿病治療」が引き起こすリスクと、現代医学への疑問を投げかけます。
一般に現代医学では、「糖尿病の人はアルツハイマー型認知症になりやすい」と言われています。ところが......。
私が勤めていた浴風会病院では、「糖尿病の人とそれ以外の人では生存曲線は変わらない」ことがわかっていたため、「高齢者の糖尿病は積極的には治療しない」という方針をとっていました。
その方針の先にわかったことは、「糖尿病の人のほうがアルツハイマーになりにくい」ことでした。浴風会での3年間のご遺体の剖検では、糖尿病ではない人のほうが、糖尿病の人の3倍の確率でアルツハイマー型認知症になっていました。
脳にたっぷりブドウ糖が行きわたるほうが、アルツハイマーになりにくいのだと病院内では言われていましたね。
薬やインシュリンで血糖値を正常レベルに戻すとむしろ低血糖が起き、脳に糖分が十分にいかない時間帯ができることで、脳にとって大きなダメージが生じうるのではないかーーそんなメカニズムを和田さんは「私の仮説」として示します。
「人は齢を取れば取るほど幸せになる」のに、さまざまな「刷り込み」がその幸せを妨げているのではないかーーそんな視点で記された数々のファクトや提言が満載。高齢者はもちろん、これから齢を重ねていくミドルレンジの人々にとっても、今後の人生を楽しく生きる指針となる一冊です。