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漫才を読んでいるような感覚

戸部田 『一発屋芸人列伝』を読んで、すごく感じたのは、声が聞こえる文体だなと思って。話し言葉の文章の場合は、わりとそういうのも多いと思うんですけど、書き言葉の文章なのに声が聞こえる。だからすごく読みやすいし、髭男爵さんのネタで「事情が変わった」ってありますけど、まさにその“事情が変わった”瞬間とかを描いていて。本当に漫才を読んでいるような感覚でした。

山田 これはいい言葉をいただきました! いや、でもやっぱり僕、ものを書くのは素人なので、頭の中で読むでしょ。そのときにあんまりつっかえへん感じで、テンポ良く、気持ち良く読めるふうに書くというのはすごく心がけていました。だからそもそも、ひぐち君とやっている漫才のネタがけっこう文章寄りやったのかもしれないです。ご存じやと思うんですけど、ひぐち君は、しゃべれる文字数とかが決まっている人なので(笑)。特に『(爆笑)オンエアバトル』で隆盛を誇ったボケ方というのがあって、ものすごく長いことしゃべって、最後に一個ツッコむというパターン。絶対ウケるやつがあったんですよ。うちの場合は、これができないんです(笑)。ということは、ここまでに至るリズムとかも変わってくるから、いろいろ苦労させられていて。そこでの修業が役に立ったのかもしれないです(笑)。

 

『電波少年』の思い出

戸部田 山田さんは『全部やれ。』にも登場する(日テレの)土屋さんや五味さんと、『電波少年』や『エンタの神様』で仕事されてますよね。

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山田 そうですね。ホントに若手のペーペーのときに出ていますから、怖いだけの存在。雲上人という感じ。でも、この本を読んだら、あの人たちにも落ちこぼれの情けない時期もあったんだなって。働き方も超ブラックですもんね(笑)。

戸部田 土屋さんは、上司から「帰るな」って言われてたという。帰らない前提のスケジュールを組まれてたそうなので。しかも、つくり手として失格の烙印を押され、もっと過酷な別の部署に異動させられたりしていますからね。

山田 だから、そういう経験をされている人やったら、『電波少年』のあの現場もまあ許せるかなと思いましたね(笑)。

 

戸部田 実際の『電波少年』の現場はどうでしたか。

山田 いやいや、今の感覚で言うたら超ブラックですよ。『全部やれ。』の中での証言もチラホラそうやったんですけど、この人たち、最終的にいい感じで言いはりますよね(笑)。僕は、「電波少年的インターポール」、「電波少年的巨乳ジャンケン」という訳のわからん短い単発企画をやってから「アンコールワットへの道の舗装」という企画でカンボジアに行ったんですけど、それが終わって日本へ帰ってきて、それでもまだ解放されるかどうかもわからないんです。

 

 しばらく何かあって、ある日突然、今日で解放ですってなって、「T部長」こと土屋さんが現場に「お疲れ」みたいなことを言いにきていたんですよ。ふんわりとしか覚えてないですけど、「この経験が今後の芸人活動に……」みたいな、ええふうな言い方をしたんですよ。僕も、やっぱ人間甘いなと思ったんですけど、そのときに「ええ人やな」と思ってもうて(笑)。やっぱりそれだけの修羅場をくぐり抜けてきた、一枚も、二枚も、三枚も上の人間なんやなと、今回この本を読んで改めて思いました。