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スポーツは「記録」より「記憶」

――2022年には、41歳で自己最速の149kmを記録しました。

和田 でも、引退して思うのは、スポーツってやっぱり記録より記憶なんじゃないかと。何勝したとか奪三振記録なんてコアなファン以外はほとんど覚えていない。それよりはメジャーに行ったとか、国際大会で活躍したとか挑戦する姿の方が多くの人の記憶に残る。最近で言えば、35歳でメジャー行きを決めたジャイアンツの菅野(智之)くんの決断は必ず多くの人の心に残ると思うんです。誰も考えなかった30半ばでのメジャー挑戦は、何勝したかという記録よりもずっと語り継がれるはずですよね。

 野球に限ったことじゃなくて、人生においてチャレンジすることって一番大事だと思っているんです。僕も挑戦者魂はいくつになっても持ち続けたいですね。

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和田毅さん(2010年撮影) ©文藝春秋/杉山秀樹

引退するまでに寄贈したワクチンは、73万5120本

――和田さんは様々な社会貢献活動もされていますよね。2005年から毎年開発途上国の子どもたちにワクチンを寄贈、地元・島根県で開催される「和田毅杯 少年少女野球大会」は今年で20回目を迎えました。ひとり親世帯の子どもや養護施設に野球用具をプレゼントするプロジェクト(「DREAM BRIDGE」)にも発起人として携わっています。

和田 何か特別なことをしているという感覚はなくて。「これやったら子どもたちは喜ぶかな」というところが出発点です。

 ワクチンのことは、認定NPO法人「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」(JCV)の活動を球団の紹介で知ったのがきっかけでした。貧困でワクチンが打てず、毎年150万人以上の子どもたちが命を落としていると。僕らは子どもの頃にあらゆる予防接種を無料で受けられて、「注射が嫌だ」なんて言っていたのに、彼らにとっては是が非でもほしいワクチンなんですよね。国の違いでこんなに異なるのか、という衝撃がありました。

 

 ワクチンという本当に必要なものを送るというのは、ただ単にお金を寄付するよりもいいんじゃないかなと思ったんですよね。それで、JCVさんのほうからも「ぜひ一緒にやりませんか」と言っていただいて始めました。

 1球投げるごとに10人分、勝利投手になれば1球20人分、リーグ優勝すれば追加で1万人分……というように「僕のルール」を決めたんです。出来るだけ多くのワクチンを送りたいと思えば、自分のモチベーションにもなりますからね。