地元のイベントで踊る橋本をななめ下からとらえた写真「奇跡の1枚」は、健気に真摯にポーズをとったときのもので、伸ばした指の緊張感と、この動作に命をかけているような熱っぽい眼差しと少し開いた口元のバランスが、これぞ「奇跡の」黄金比のようであった。髪の毛のなびき具合も最高であった(映した人もすごい)。
これをきっかけに橋本環奈は角川映画40周年記念作『セーラー服と機関銃‐卒業‐』(16年)のヒロインに抜擢された。女子高生がヤクザの組長にまつりあげられるという、昭和感あふれる『セーラー服~』は、もとは1981年に公開された薬師丸ひろ子の出世作であり、その後、2006年のリメイクドラマで長澤まさみも演じている。アイドルから俳優への道筋としてはこのうえない作品に出会えたと言っていい。ただ、橋本環奈の俳優としての才能が花開くのは、福田雄一監督との出会いを待たなくてはならなかった。といってもそんなに間はなく、翌年のことである。
福田雄一作品で活きた「瞬間芸」
福田作品で橋本は意外にも、「奇跡の1枚」に見えた健気で清楚な美少女のイメージをぶち壊し、汚れもこなすコメディエンヌとなった。
映画『銀魂』(17年)で橋本が演じたのは、言葉の語尾に「~ある」「~よ」などがつく、チャイナ服を着た神楽だ。色白でかわいいが戦闘能力は高い。これだけだとまあまあよくあるキャラクターなのだが、神楽はそこに「汚れ」属性が付与されていた。原作漫画で神楽は、週刊少年ジャンプ史上、初めてゲロを吐いたヒロインとされている。それだけでなく、白目をむいたり、とてつもないヘン顔をしたりと、笑いのために滅私奉公しているような役なのである。そこから、いわゆる美少女のイメージを払拭した橋本環奈は大衆に親しみやすさを感じさせ、めきめき知名度を広げていく。
同じく福田監督による『今日から俺は!!』(18年 日本テレビ系)ではスケバン役。長いスカートのセーラー服に聖子ちゃんカットの京子は、色白の顔に真っ赤な口紅が蠱惑的。しゃべると荒っぽく喧嘩も強いが、彼氏の前ではかわいい女の子になってしまう。
美少女の仮面をはいで、汚れやおもしろのできる思い切りのよさで注目された橋本は、これを自身の俳優としての得意技としていく。演技の上でも、別人のように表情を切り替える瞬間芸の能力に磨きがかかっていく。筆者は『銀魂』の撮影現場で、福田監督が動きの提案をして、それを橋本が瞬時にこともなげにやって見せて、福田が満足そうにニコニコしているところを見たことがある。
橋本のこの切り替えの速さは、これはこれで立派な芸である。この芸を全うするには、秒でどれだけ飛距離を出せるかが問われる。つまり身体的能力がものを言うのだ。
待機中も「女社長」のようだった
そして、あっという間に豹変芸が名人芸のようになった頃、『十二人の死にたい子どもたち』(19年)では、徹頭徹尾クールな役を演じた。自身に絶望して死ぬために集まってきた10代の子どもたちのひとりであるリョウコは、死にたいと思うのが不思議に感じられる人気女優の役である。でも「大勢の大人が時間とお金をかけて作った商品よ!」と自虐する。
このとき、オフィシャルライターとして撮影現場を取材していた筆者は橋本環奈にインタビューをしたのだが、リョウコのように大人にプロデュースされるままになっている状態と自身はまったく違うようだった。若い俳優は、どうしても演技が未熟な分、自分に似た感じの役で不足部分を埋めることが多いが、橋本は自分と違うパーソナリティでも躊躇なく演じることができるようだ。