「中国人の親の教育熱は日本人の親の比ではないです。中国人の母親は、子供が悪い成績をとったら怒鳴りつける。中国人からすると日本の親は子供にかけるエネルギーが全然足りないように見えます。中国の学校教育には小さいころから過酷な競争がある。子育てに『遊び』という要素は一切なく、勉強、勉強と、もうそれだけです」
中国国内では“内巻”と呼ばれる受験競争の激しさは社会問題にもなっている。
高校までを中国で過ごし、現在は都内の4年制大学に通う中国人の陳さん(仮名)は、母国の教育をこう振り返る。
「中学の先生は成績によって人を判断する成績主義者で、勉強が出来ない奴はダメな奴と思っているタイプでした。朝8時前から授業が始まって18時半ごろに学校が終わると、出された課題をこなすのに24時〜26時まで机に向かう毎日。部活動なんかもする暇はなく、勉強に集中させるためという名目で恋愛も禁止されていた。成績が悪いだけでいじめられることもありました」
2015年に来日し現在は、都内で働く劉さん(仮名)が言葉を継ぐ。
「中国には高考(中国の大学入試)を経て大学進学を目指す普通科高校と、卒業後にすぐに働き始める職業高校があります。『職業高校に進学した者は社会の底辺だ』という刷り込みがすごい。もし自分に子供ができたとしても決して中国では子育てしないでしょう」
「日本の受験は中国に比べて楽」
周氏は、在日中国人の教育熱の未来をこう予測する。
「中国の受験戦争に比べたら日本の受験なんて楽です。ただ、日本の中国人社会も中国と同じようになってきている。私も日本で子供を塾に通わせましたし、家庭教師もつけています。これから、中国本土と同様に競争が激化し猛勉強する家庭も出てくるでしょう」
前出の陳さんは、受験以上に、中国で厳しくなっている愛国主義に問題があると考えている。
「中学校では、ルールの一番初めに『(共産)党を愛する』ことを約束させられます。何かを愛することは自発的な行為のはずなのですが……。習近平政権になってネットの監視は強化され、特に2019年ごろから顕著になっています。メディアはフェイクニュースばかりを流しているのが現状。だから逆に私はジャーナリズムに関心を持つようになりましたが、中国で友人に伝えたところ、『捕まらないように』と忠告された。実家に帰省することはあっても、自由のない中国で生活していこうとは、まったく思っていません」
中国からやってくる者たちの中には、習近平政権に明確な「NO」を突きつける人々が数多いるのだ。
次回は日本を舞台に、新たなる中国の未来を目指す人々を追う。
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